第17話 魔王の片鱗

 やるしかないといっても別にこの程度の状況で100%の力を出す必要は無い。

むしろそうすると一体が更地になってしまうだろう。


「はあっ、はあっ。ちょっとやばいね……」

「下がれ」

「ダリウス?」

「後は俺に任せておけ」


「この数を1人では流石のダリウスでも無理だよ……」

「もう戦えない奴にそんなこと言われたくはないな」

「でも……」


「いいからセレナを連れて下がっていろ」

「……分かった」


 なんとかアリスが聞き入れてくれたのでさっそくやるとしようか。


 発生する被害を考慮すると燃え移る可能性のある火属性は使えない。


 風属性も圧縮して発動すれば被害を抑えられるが複数同時となると実体を持たない風の操作は難易度が跳ね上がる。


 電属性は一帯のインフラに致命的な打撃を与えてしまう。


 空間魔法は得意分野だがこちらでは試行回数がまだ少なく精密性には絶対の自信が持てない。


 色々考えた結果、この場で使うには水属性魔法が一番適しているという結論に至った。


 目を閉じ魔法の発動と周りの状況確認に意識を集中させる。

魔法の遠隔発動は魔法の発動に重要なイメージがし辛く、集中力も必要とされる。


 グリムの足音、後ろに引いたアリスとセレナの荒い呼吸音、ヴィオラが刀を振るうことで起こる空気の流れ。


 同じ魔法陣を同時に複数の地点に発生させた。その数72個。


 今出した魔法陣は水属性魔法、圧縮水弾。

これは魔法陣から圧縮した水を放つ魔法。

水圧レーザーのようなものだと考えてもらっていい。


 超高圧で圧縮された水は驚異的な威力を誇り、グリムの体程度ならば簡単に貫くほどだ。


 辺りにいたグリムは全員叫び声をあげる暇すら無く頭を貫かれ即死していく。


「何今の!?」

「多分圧縮水弾ね。でもあれだけの数を同時に発動してそれを正確にグリムの急所に当てるなんて。あれはまさに神業だわ……」


「ふぅ……少し疲れるな」

3人にはしっかり見られてしまったが何か問い詰められたら遠隔発動が得意とか言って適当に誤魔化そう。


 だがこれでも周りのグリムが消えただけですぐに新しいグリムが裂け目から降りてくる。

次は何を試そ―――


「そこの4人! 大丈夫か!」


 力強い女性の声が聞こえそちらを振り向くとそこには4人の男女。


 魔王の片鱗を見せてしまった今となっては邪魔者と言うべきか、別のパーティーがこのタイミングで援護にやってきた。


「私はアルテナ! このパーティーのリーダーだ!」


 アルテナ。その名は何度か耳にしたことがある。

現在存在しているSランクパーティーの中でも最強格のパーティーでリーダーを務めている。

 

「ここまでよくこの大群を抑えてくれた。後は任せて君たちはもう撤退していいぞ」


 周りからみればこのパーティーはアリスとセレナがダウンし半壊状態だ。撤退を指示するのにもうなずける。

ここは素直に言うことを聞いて波風たてないこと優先だ。


 そのままアルテナのパーティーにその場を任せて俺がアリス、ヴィオラがセレナを担いでその場を後にした。



 





 



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