第14話 暴走する力
初のクエストから1ヶ月。
グリムの討伐、飼い犬の捜索、遺跡調査の護衛などの様々なクエストをこなし仲間たちと魔導師としての日々を過ごしていた。
今は4人でレストランに集まっていて、食後に今日の魔導師としての活動を始める予定だ。
「今日はどんなクエストがあるのかな~」
アリスはハンバーグを口に運びながらそう言った。
「そういえば、あたしたちっていつランクアップできるの?」
「ある程度クエストをこなせば上がる」
ヴィオラは不器用にナイフとフォークを扱いながらセレナの疑問に答えた。
「そのある程度がどれくらいか知りたくて言ってるの。先が見えないとモチベーションも上がらないじゃない?」
「受付で聞けば分かるんじゃないか?」
「また今度聞いてみることにするわ」
会計を済ませレストランを出てギルドへ向かう。今日も4人でクエストをこなすスケジュールだ。
「こんにちは」
「こんにちは、皆さん。今日はこのような依頼が来ていますよ」
横でクエストの張り出された掲示板を見ているアリスが1つの依頼を指差した。
「エーテルマギアが暴走した子供の保護だってさ」
「それを受けるなら急いだ方が良さそうだな。その子供だけでなく周りの人間にも被害が及ぶ可能性が高い」
「じゃあ急いで私たちが解決しないとね」
まだ精神が未発達な子供に起こりやすい現象なのでこの任務では精神面のケアができるアリスの存在はかなり大きい。
「頑張ってくださいねー」
「任せてくださいっ!」
やる気満々のアリスを戦闘に目的地へ疾風を利用した移動を開始した。
3分後、風属性魔法で移動を続け目的地の住宅街に到着した。
「助けてください!」
地面へ降りたと同時に中学生ほどの少女が助けを求めてきた。
「私の……弟がっ、暴走してるんです!」
「分かった、案内してくれるか?」
「はい」
「移動は私に任せて」
ヴィオラが少女を抱き抱えて案内を受けることで魔法での移動が可能になった。
「向こうです」
「了解」
少女に案内された方向へ飛んでいくと、家や道が氷に包まれている場所が確認できる。
少女の弟が持つエーテルマギアは氷を発生させる魔法らしい。
あれに一般人が巻き込まれていたらひとたまりもないだろう。
「おそらくこの氷が発生している中心にこの子の弟がいる。アリスと俺の2人で子供の保護、ヴィオラとセレナは周辺の負傷者の確認と救護を頼む」
「まずは中心の氷を溶かして侵入するぞ」
右手から炎を放ち氷を溶かしていく。
火力を上げれば一瞬で溶かせるが調整を間違えると中の子供まで燃えてしまう。
「結構慎重だね」
「被害を抑えるためにもな」
ある程度氷を溶かすと中には公園があり、その公園の地面には1人の子供が倒れている。
「公園の敷地はそこまで凍ってなさそうだね」
「内部の広さからして窒息はしていなさそうだな」
さらに氷を溶かし、中にできた空間と繋がった。
子供は気絶しているようだが顔色は良く、暴走によるショックで気絶した可能性が高そうだ。
「大丈夫!? 起きて!!」
「落ち着け、顔色は良いんだ。その子を連れて出るぞ」
「うん」
アリスと共に子供を抱えたまま氷が無い場所まで移動してきた。
「外傷は見つからないな」
「でも一応内出血とかしてたら良くないし治癒でもかけておこうかな」
「なら俺がやる。魔力の量は俺の方が圧倒的に多いからな」
右手で回復魔法の治癒を発動し子供の体に触れ全身にしっかりと循環させる。
「これで負傷を負っていても完治しているはずだ」
「よかった~」
「保護したことはヴィオラとセレナには俺から連絡しておく」
大量に発生した氷は魔法によるものだから状態変化が起こらない。そしてしばらく放置すれば勝手に消滅する。
これで俺たちの任務は終了だ。
「ねえダリウス。まさかもうクエスト完了って思ってない?」
「……違うのか?」
「さっき案内してくれたあの子に生きてるところ見せてあげないと」
「……」
アリスはエーテルマギアの性質故か、人の心を大切に思っていて、心理学も興味を示している。
アリスは意思を曲げる気は無さそうなので仕方なく先ほどの少女を探し出して弟を引き渡すことにした。
「ショックで気絶しているが負傷は一切負っていない」
「すごく動揺してると思うからしばらく隣にいてあげてね。きっと安心できるから」
「はい、ありがとうございます!」
お礼の言葉を述べる少女の目には涙が浮かんでいた。
「じゃあ、俺たちはこの辺りで」
「じゃあねー」
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