民主主義

 民主主義とは何か。

 それについて語りだした僕に対して。


「それでうまく行くのか?何も知らぬ民主に政治の行く末を任せるのは得策とは思えない。餅は餅屋だ……奴らを認めるなど、吐き気を催すが、それでも、政治という分野においての能力は貴族どもが上だ。俺よりもな。政治とは高度な人間関係と駆け引きの場だ。それに何も知らぬ民を入れたところで成り立つとは思わない……絵空事にしか見えない」


「そのための教育だ。全国民にお前が受けてきたのと同水準の教育を成人するまで徹底的に教える。それで、政治の舞台に立てるだけの最低限の資格を持った者たちを作り上げる」


 オルモは想像以上の食いつきを見せてきていた。


「だが、どれだけ教育を施しても生まれながらの知能指数の低い者もいるだろう。その場合はどうするというのだ?ここはどうしようもないだろう」


「だからこその多数決だよ。一部の馬鹿はこれで取り除ける」


「……なるほど」


「別にこれは最適な政治形態というわけではないとも。あくまで、この世界にあり得る政治形態の一つに過ぎない。そして、これは貴族と市民の格差を埋める一手でもある」


「……それは、うまく行くのか?お前が生きている間に」


「無理だろうな。現に、王侯貴族に対して恨み節を持つオルモでさえ、容易に頷けていけない。それが、唯の事実だ」


「……」


 僕の言葉にオルモは口を閉じる。


「……ッ」


 それが、悪かったのだろうか。

 オルモは何かへと気づいたかのように顔を上げる。


「お前は、話をしようと言ったな?」


「そうだね」


「では、殺気立ったままこちらに近づいてくる竜は何だ?……俺は、お前の話を」


「ふふ……」


 まずいまずいまずいまずい。

 バレた。気づかれた。アホっ!!!僕が死ぬだろっ。どれくらいで、あとどれくらいでっ!!!


「貴様っ!」


 内心で焦る僕へとその手を一気に伸ばしてきて───。


「ふぎゃっ」


 その、風圧だけで僕は吹き飛んでいく。


「ごべぇっ」


「……は?」


 手を伸ばしていた時のただの風圧だけ。

 それだけだったおかげで、壁に叩きつけられた僕は頭の方にどろりとした感触を覚えながらも、それでも辛うじて思考を保ちづける。


「あっはっはっはっ!ばぁーかっ!僕は何の力も持たねぇ一般人だよっ!騙されてやんのぉ!」


 そんな僕は大きな声で笑い声をあげながら、オルモを笑う。

 まだ、僕は生きていた。


「……はぁー、あとは任せた」


 そして、この場に現れた二人を視界の端に映した僕はそのまま瞳を閉じるのだった。

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