時間稼ぎ
怖い。
自分を軽く殺せるであろう相手を前に啖呵を切るのは。
それでも、この道を選んだのは僕だ。
「……何故、俺の名前を?」
自分の恐怖を押し殺し、さぁ、貴族として、責任ある者として前へ。
「さてね。それでも、そんなのどうでもいいだろう?」
僕は口を開く。
「どうでもいいわけがっ」
「君の生まれが何処だとか、過去がどうだってのはそんなに大事かい?」
紅魔の牙のトップであるオルモ。
その彼の過去は赤裸々にゲームの設定集で語られていた。
簡単に言うと、彼は大商会の生まれで元はかなり裕福な生まれであったものの、王侯貴族の理不尽で家族が壊れてしまった男だ。
下らぬ王侯貴族の思惑で、オルモの父が運営されていた大商会は崩壊。
父は自殺し、母は毎晩泣き、姉は生きるために体を売り始めた。
そんな中で育ったオルモは王侯貴族の恨みを募らせ、元々受けていた高度な教育に己の智謀に武力の才能も合わせて復讐の為に動いてきたのが彼だ。
「僕は今の王侯貴族の姿が正しいものであるとは思っていない」
「何?」
「彼らはあまりにも無茶苦茶の過ぎる者が多い。我ら王侯貴族は民の代行者でなければならない。民の為に我らがいるというのを忘れているものがあまりにも多い」
「……」
「なれば、代行者としての立場を別に移譲するのも止む無し。例えば、貴族制を廃止し、民衆が代表者を直接選ぶというのも一つの手だろう」
つまりは民主主義である。
「どういう、こと……いや、どんな話だ?」
「政治形態の話だとも。オルモ君も大人になったのではないか?ただの復讐でいいのか?今のままで、君一人がどれだけ足掻いたところで、一部の王侯貴族が死ぬだけだ。全体は落ちない。だが、そもそもの社会構造を変えられたらどうなると思う?」
「……何の為に、それを俺に語る」
よしよし、食いついている。めっちゃ食いついているよぉ、実に良い、素晴らしい。それでいい。
「貴族制の是非についてまでは語らない。ただ、その中で、僕が自分の中にある政治形態について一つ、話しておこう」
この世界にはローマも、ギリシャもない。
古代の世界に民主主義はなく、ここにあるのは永遠に貴族制または王政だ。貴族の権限が強かったり、国王の権限が強かったりでまちまち。
今はちょうど均衡がとれ、僅かに貴族へと傾いているかどうかという次元だ。
「僕はここで、自分の考える政治形態、民主主義について語りたい」
「みんしゅ、しゅぎ……」
民主主義。
僕はこの場で堂々たる態度で、政治形態について話し始めるのだった。
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新作です!良ければ見てくれると嬉しいです!
『狂愛は誰が為に~自分の妹が己への愛を拗らせ過ぎて人類の敵になったのだが、一体僕はどうすればいいですか?~』
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