思惑
こうするしかなかった。
こうするほかなかった。
僕が紅魔の牙のトップに立つなら、最後の悪あがきとして、せめて、ここまで邪魔をしてきた男の領地くらいを崩壊にまで追い込んで見せる。
僕ならそうする……だから、彼もすると思った。
「やぁ、はじめましてだな」
出るしかなかった。
行くしかなかった。
「……」
既に、マリエとフェーデの助けを呼ぶ魔法は発動してある。
何時かは、ちゃんと二人が助けに来てくれるだろう。
「……タイミングが完ぺきだな」
「動くならここだろう。完全に、勝ち目がなくなるここだ」
「……」
紅魔の牙のボスがどう動くか。
それはある程度計算できる。
何処まで行っても合理的な男だ。最後の最後まで逆転の芽を探るはずで、動くとしたらその芽がなくなったその瞬間だ。
「わかりやすいか、俺は」
「まぁな。同じところで見ている。それがわかっていれば、簡単だ」
本当は、僕が出るのではなく、マリエかフェーデのどちらかを紅魔の牙のボスにぶつけたかった。
でも、相手が逆転の芽を潰れたその瞬間に動き出すと想像できる相手に、そんな安パイは取れなかった。
変なタイミングで紅魔の牙のボスへと彼女たちのどちらかをぶつけることも当然出来るが、そうなると、今度は緊急事態を察した部下たちが動き出して自分の領地を含め、最後の悪あがきで出来るだけ多くの被害を与えようとしてくる。
そして、ここで僕が紅魔の牙のボスの前に姿を現さなければ、彼の自由を僕の領内で許すことになる。
僕が動くしかなかった。
逆転の芽を潰せるレベルまで二人を動かし、そして、その後にすぐ動くであろう紅魔の牙のボスの足を止められる可能性があったのは自分だけだった。
「……同じところでなど、見えていない。俺はほとんど掴めなかったからな」
「そうか?」
「どうやって、こちらの情報を掴んでいるのか……俺はずっと後手だったとも。実に末恐ろしい少年だ。くくく……ここまで来ると、いっそ清々しい」
「……」
「俺もここで、終わりだ」
「それはどうかな?」
目の前の紅魔の牙のボスが告げる諦めの言葉に僕は一旦、待ったをかける。
「何……?」
「話を聞いてあげようと思ってね」
さぁ、ここからは時間稼ぎだ。
僕が紅魔の牙のボスを倒せるわけがない。だが、向こうは容易に僕が紅魔の牙のボスを倒せると勘違いしている。
それを利用して、二人が来るまでの時間を稼いでみせようじゃないかっ!
「オルモくん」
「……ッ!?」
紅魔の牙のボス、オルモを前に、僕はしっかりと啖呵を切って、ポーカーフェイスを見せるのだった。
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