博打
まずは敵側の視点。
目的を仄めかす。
動き出す。
世界連合軍が王都にまで迫り、どんどんと革命軍の旗色が悪くなっている中で。
「……」
誰もいない玉座で一人、古びた座席に座る男は難しい顔をして固まっていた。
「このままでは必敗……」
そして、語るのは今後の展望である。
「もとより、勝てる戦としては見ていない」
この貴族社会で、王族を殺して上に立った国の存在など、何処の国も認めるはずがない。
世界各国が一挙なして雪崩のように押し寄せ、革命軍を崩壊させるであろうということは最初からわかっていた。
革命軍が負けるのは否定調和。
だが。
「我らの目的は達すると踏んでいた」
男にとって、世界連合軍とは別の要素。
ディザイアの存在は勘定に入っていなかった。
「世界の、傲慢な王侯貴族どもに鉄槌を……」
ディザイアの存在により、紅魔の牙の暗躍はほとんど想定通りに行っていない。
そのすべてが彼の手によって止められてしまっていると言っても過言ではない。
オルスロイ王国をパイにして、世界各国の対立を煽るということも、そのパイに紅魔の牙という毒を仕込むことも、そのすべてがうまく行っていない。
このままいけば、生き残った王族であるルーナ王女の活躍と、他国が得をするくらいなら、という打算から何もなくオルスロイ王国が復権する。
そして、そのオルスロイ王国に毒として仕込もうとしていた者たちもほとんど襲撃を受けて進んでいない。
ディザイアの動きは、男にとって最悪のものだった。
「……どこまで見ているのだ」
ディザイアの影が叩き潰した紅魔の牙のアジトは毒を仕込むために重要な拠点だった。
ルーナ王女に奪還された街もまた、同じく重要な拠点だった。
「……完全に、負けだな」
ここまで来ればわかる。
自分の動きは完全に向こうから把握されていた、と。
どう動けば、ここまで完全に把握できるのか。
ただただ感嘆するばかりだ。
「……クソッタレめ」
男は久方ぶりに悪態を吐き、そして、深呼吸を一つ。
「仕方あるまい。現実を受け入れよう。今回は敗北だ」
敗北を受け入れた。
「そして、次回はない」
その上で、更に自分たちに未来がないことも受け入れる。
ここまで多くのリソースを割き、想像以上の被害も受けている。
再びここまで大きな騒動を起こすことは出来ないと言ってもいいだろう。
そもそも今回のはオルスロイ王国の想定外の衰退を受けて、始めた一件であり、元より少しだけ無理をしていたのだ。それが完全に不発となってしまえば、どうしようもない。
「だが、勝つのはこちらだ」
ただ、その上で、負けるつもりは毛頭なかった。
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