逆鱗

 頻繁に自分の元へとやってくる刺客。

 それをマリエとフェーデを倒す。

 そんなことをただただ繰り返すこと一か月。

 あまり世界連合軍の方の足並みが整わず、オルスロイ王国の革命勢力がうまく行っていない状況の中で。


「……これ、僕は相手にされていないね」


 僕は冷静に自分の状況を分析していた。

 ここまで来れば、流石にもうわかってくる。


「向こうの目的は僕への刺客を送り続けることでマリエとフェーデという二つの戦力をここに食い止めてきたな。こちらは完全に無視してしまうらしい」


 ただ、それだとどうやって勝利するのか……王族が相手の手のうちにいるというのは非常に動きにくいはず。

 国王無しでやっていくことを世界に宣言するとしても、新しい国王を立てるにしても、過去の王族が存在するというのはそれら二つを円滑に進めなくするには十分だろう。

 

「いや……ドミノ理論を引き起こせるだけでアドではあるか」


 そこまで大きなうねりとはなっていないが、それでもほんの一握りの国ではオルスロイ王国のような革命勢力が動き出す残滓を感じられている。

 これだけでも十分に今回の事件を起こした意味はあったと言えるだろう。


「……あれにもつながる」


 今、起こっているイベントは知らない。

 こんな事件を紅魔の牙はゲームの中で引き起こしていない……ただ、今回のこれはこのまま彼らがゲームで引き起こした話にまでも波及する可能性が十分あるような状況だった。

 

「……ふぅむ」


 今の状況は最初の自分の思うがままでもある。

 そして、このままで行っても何時かは統率の取れていない烏合の衆でしかない世界連合がしっかりと革命戦力をこそぎ落としてくれるだろう。

 今は多くの国々がオルスロイ王国のことよりも、まずは今回のことを利用して敵国の力をそごうと躍起になっているからこその現状である。

 足の引っ張り合いをしての停滞。

 だが、その停滞も永遠であるはずがなかった。


「だけど、このままでいるわけにもいかないな」


 僕の前には紅魔の牙の襲撃によって半壊され、死者が数十名出してしまったことを知らせる報告書が置かれていた。


「さて、と」


 悠々とこちらの逆鱗へと触れてきた紅魔の牙のことを思いながら、僕は静かに足を組むのだった。

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