ディザイアが一人、執務室で頭を抱えていたような頃。

 目下、世界をにぎわせているオルスロイ王国の王都に威を構える王城にて。


「ふむ。やはり剣聖と竜の二人組は格が違うか。どうしようもない……早々勝てるような相手でも、ないか」


 散々に破壊され尽くされた玉座の上に乗せられた既にボロボロの椅子に腰かける男がぼそりと言葉を漏らす。

 その周りには誰もいないばかりか、そこの周辺からは一切の音が聞こえない。

 栄えているはずの王都。

 そこから音の消えた、その中心地たる王城で一人、男は言葉をその口から話していた。

 

「……だが」


 そんな男は自分の前にある一つのシンプルな木の机に置かれておる地図を手で撫でながら口を動かしていく。


「何となくはわかってきたぞ。現状、あそこの土地には剣聖と竜以外に目ぼしいものは何もいない」

 

 散々と送ってやった刺客より得られる情報を頭の中で整理していく男は独り言と共に自分の考えをまとめていた。


「このまま放置であったとしても、さほど問題はないだろう。刺客を送り続け、時折、領地の方にも兵を送っておけば勝手に戦力を領内に貼り付けておいてくれるだろう」


 そして、一つの結論にたどり着く。


「……問題は、何処までも底が知れぬ飼い主だが」


 最後の懸念点。

 だが、その思考を男は破棄する。


「底は知れない。どこまでのポテンシャル、のうりょくを持っているのか……それでも、だ。当主が有能でなければ、領地の発展はない。今後のことを考えれば、厄介なことになる可能性もあるが、現状では当主の優秀さ、並びに側近二人だけではどうしようもならないレベルだな。本当に、これは……前当主がいかに酷かったのかが目立つな」


 地図を撫でていた男の腕がそっと、地図から離れていく。


「さて、世界よ。ここから、どう動く?」


 そして、その手を代わりに自身の顎へと持ってきた男はそのまま静かに自分の顎を撫でながら、大胆不敵な独り言をこの誰もいなくなった王城に響かせるのだった。

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