動き出し

 方針は定まった。

 しっかりと国王陛下とルーナ王女殿下の顔合わせは済んだ。

 1000人の侵入者もしっかりと国王陛下が引き取っていた。

 領地からは国王陛下が去り、安寧が残った。


「あぁぁぁぁぁぁぁ」


 だが、そんな状態で僕は一人、頭を抱えていた。


「どうやって勝つねんっ!紅魔の牙にぃ!?」


 問題はただ一つ。

 どうやって紅魔の牙に勝つか、である。

 まず、大前提として既にうちの領内にいた騎士たちは全員、国の要請に従って送り出してしまっているのである。

 領地に残っているのは警備兵。

 有事の際の戦力ではなく、あくまでただの一個人に過ぎない犯罪者を許さないための武力である。

 そんな警備兵でゲーム本編でも圧倒的な存在感を持っていた紅魔の牙と戦えだって?


「無理ゲーだろっ!」


 そんなのいくらマリエとフェーデの二人がいても無理である。

 冷静にね?

 うん。

 絶対に無理ですねっ。

 もう全力でサボって、紅魔の牙?いやぁ……ちょっと強いっすねぇ。なんてことを言ってお茶を濁したい。

 濁したい……。

 でもなぁ……。


「いる、しなぁ……」


 紅魔の牙への恨みを貯め、国を思う王女様が我が領地の中にいるのだ。

 私の出番はまだか、まだかと鼻息を荒げている少女の前で自分が完全に物事を誤魔化すのは不可能に近いと思う。

 サボっているところがあれば、すぐに彼女から突っつかれてしまうだろう。

 前世ではただの一般人にしかすぎなかった僕が厳しい貴族社会を生きてきた王女様に勝てるわけがない。


「マジでどうすればいいんだっ……」


 あまりにも絶望的な状況を前に、僕は静かに頭を抱える。


「うーん……まずは、偽装するか……」


 そんな中で、まず、僕は先代から紅魔の牙について調査を行っていたという書類の偽装を始めるのだった。

 えっ?書類の偽装は犯罪?何言っているの、バレなきゃ犯罪じゃないんだよ。

 木っ端男爵家が何をどうしたかなんてお上は普通気にしない。

 父上は普通に一回も報告書を王家の方にあげていなかったし、雑多に書類がゴミのように保管されているだけだった。そんな中に一枚、書類が増えたくらいじゃ何も変わらないさ。バレやしない。

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