課題点

 串焼きを食べながら街の中を歩いていく僕は活気ある街の中で、変わりなく問題点等についても確認してまわっていた。


「やっぱり、まだまだなんだよなぁ……特に、下の方にはまるで手が届いていない」


 僕が当主代行として働き始めた時と、今とでは街の様子はガラリと違う。

 フェーデのだし汁を売りにした温泉という新たな観光地に、楽市楽座によって広く開かれた形となった市場。

 その他にもマリエがたまに降ろしているエルフ秘蔵の薬だったり、剥がれ落ちたフェーデの鱗だったり、普通であれば出回ることなどない貴重品が流れてくるのを虎視眈々と待つためにずっと我が領地へと滞在している金持ちやらコレクターやら。

 多くの要因が重なって徐々に人が増えていっているが、それでも、一切変わっていないところも多い。

 例えば、この街にあるスラム。

 そこにいる人たちを救済するところにまで全然回っていない。格差は広がり続ける一歩である。


「……それに、結局のところ、我が領地の売りって少ないんだよなぁ」


 それに加えて、結局のところ、我が領地の魅力はマリエとフェーデの二人頼りというところから脱却できていない。

 それ以外なら税金がない分、ちょっとだけ安価になっている商品くらいだ。

 これじゃ、全然だめだろう。

 マリエとフェーデの二人はずっと一緒に居てくれると言ってくれているのでいいが、それが自分の子供の時代。今後この先ずっと続いていくことはないだろう。

 何時か、ちゃんと自分たちだけの魅力というのも作っていかなければならないだろう。


「とはいえ、そんなもの簡単に見つかるはずもないんだよなぁ……」


 我が領地は決して豊かな領地というわけではない。

 山がちで小さな領地には人の移住地は少なく、また、農地も広く作れないうえにそもそもの土壌自体も恵まれているわけではない。

 山で放し飼いされている牛の出す牛乳などは美味しいが、それ一つで売っていくのはあまりにも厳しいだろう。

 

「人に投資するのが一番だろうが……まだちょい時間はかかるよな」


 大学機関とか作ってやろうかと思っているのだが、流石にまだそんなことが出来るくらいの金はない。

 最近、奪われたばかりでもあるし。


「はあー、ままならねぇなぁ」


 とはいえ、領地の運営に近道などないだろう。

 一つずつ必要だと思ったことをやっていけばいつかは変わっていく……はずである。


「きゃぁぁぁぁあああああああああ」


「んっ……?」


 そんなことを考えながら街を歩いていた時、僕は裏路地の方から一人の少女の悲鳴が聞こえてきて足を止めるのだった。

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