串焼き

 自分のお財布事情に騎士たちの方にも確実なダメージを入れてきた王家からの要請。


「さて、どうなっているかな?」

 

 だが、それはそれとして、僕は街の方に視察へと出てきていた。

 いつものようにフェーデにかけてもらった変装の魔法を使用し、護衛としてマリエを置いての視察となる。


「おっちゃん、この串焼き一つ」


「あいよっ!」


 まぁ、視察とはいっても僕がのんびり市井の一人になったかのようにふるまうだけなのだから。


「それにしてもどう?調子は」


 僕は自分の前で串焼きを焼いてくれる屋台のおっちゃんへと声をかける。


「絶好調さっ!新しく当主になった御方が当たりでね。まだ若いのだが、それでも俺の生活を良くしてくれるっ!特に他のところから人が来ることの多いことよ。あれはまさしく英傑の器よ。俺らの領地はこれから飛躍していくさっ!」


 ただ、僕は調子のほどを聞いただけだというのに、屋台のおっちゃんは政治にまで言及してご機嫌な様子を見せる。


「そりゃあ良い」


 うん。自分の評判は悪くない。

 しっかりと領民の為の政治を行えている。

 別に何か特別なことをするでもない、ただ常に仕事へと精を出して生活を営むこういう人たちの評価こそが大事なのだ。


「ほれ、串焼きだ」


 そんな話をしている間にも串焼きは焼き終わり、屋台のおっちゃんはこちらへと焼きたてのそれを渡してくれる。


「ありがとっ」


「ところで後ろの嬢ちゃんは良いのかい?」


 串焼きを僕が受け取った中で、自分の後ろの方に控えながら、何も頼んでいないマリエの方に屋台のおっちゃんは言及する。


「あぁ、そうだね。本当は一緒に食べたいところだけど、彼女はあまり食べない子でね」


 エルフたるマリエは基本的に何もない。

 彼女は何時にが起きてもいいように、静かに僕の護衛として控えているだけだ。


「そうかい。でも、せっかくの可愛い彼女だっ!大事にしてあげろよ?」


「これ以上ないほどに大事にしているよっ。ただ、僕が食いしん坊なだけさっ。それじゃあ、おっちゃん。また来るよ」


「あいよっ」


 串焼きを手に持った僕はそのまま数歩下がって、自分のすぐ後ろにいるマリエの隣にまで戻ってくる。


「……彼女。へへ」


「マリエ、行くよ」


「うぅん……承知いたしました」


 そして、僕はそのままマリエを連れてこの街を再び歩き始める。


「街に活気ががある。この光景こそが一番だね……いや、串焼きうまっ」


 美味しい串焼きを食べ、活気ある街に充足感と間違っていないんだという手ごたえを感じながら。

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