当主
49日。
それが体内に保有する魔力が遺体から完全に抜けきるまでの時間である。
「おやすみなさい……父上」
それが過ぎ去った後、僕は父上をお墓へと埋葬した。
これで僕が正式に父上より当主の座を受け継ぎ、ロロノア男爵家の当主となる。
……。
…………。
それにかかる時間はそんな多くない。
一時間ほどで終わり、すぐに屋敷の方へと帰ってくることが出来た。
「ふぅー」
僕は何も高貴な王侯貴族というわけではない。
当主の座を受け継ぐからと言って、何か大掛かりな式典が開かれる訳では無い。
領民への顔見せ等もなく、内々で王家の方に男爵家の地位を引き継いだよ、という報告の書類を送付するだけでいい。
「これで、僕も正式に当主か」
父上のことを埋葬してから屋敷へと帰り、今、王家に送付するための書類をまとめ終えた僕は深々と息を吐く。
当主としての仕事はこれで終わり、書類仕事はもう慣れたのである。
「……」
病気で眠りについていたに父上の代行として元々、当主としての仕事は行っていた。
仕事面での心配は特にない。
でも……。
「別に、後ろめたい気持ちになる必要は無いんだけどねぇ……」
僕の頭の端にいるのはカルロたちである。
彼らはクズであったし、僕の敵であった。別に彼らを押しのけて自分が当主となったことを負い目に思う必要はない。あるはずがない。
「いやになるなぁ……」
それでも、どうしてもそれを気にしてしまう僕に己自身で呆れながら言葉を漏らす。
「継いだのは僕だ」
カルロには任せられない。
そんな理由で僕は彼を追い出し、当主となったのだ。
「ふぅー」
そんな僕が、領民のための政治が行えなかったら、笑い草にもならないだろう。
それでも、僕が他人の人生を背負うなど……いや、でも。
「大丈夫……必ず、僕は自分の職務を全うしてみせる」
自分に降りかかる最初に死ぬ悪役としての運命を避けるともに自分を慕ってくれている領民たちの命を背負い、彼らの生活を守る。
その覚悟を、僕は一人、己の執務室の中で固めるのだった。
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