修道院

 当主の座を争い、そして、敗北した者の末路など凄惨なもの以外ありえない。

 個人でさえも軽く小国を滅ぼせるようになるだけの力を得るようになるこの世界では一度、自分の敵となった者を許す甘ちゃんなどまずいない。

 自分の敵は勝てる時に勝ち、そして、二度と自分に逆らう可能性がないよう処刑するのが常だ。


「……ほんとうによろしかったのですか?」


「何が?」


 だが、それでも僕は。


「ディザイア様に逆らった者たちの処遇についてです。処刑しなくてよろしいので?」


 カルロとカターシャの二人を処刑したりはしなかった。出来なかった。


「別に十分でしょ」


 僕が行ったのはカルロから貴族としての籍を抜かせると共に、カターシャの方も向こうの子爵家どの合意の上で貴族としての籍を完全に消すばかりか父上に嫁いだという記録さえも完全に抹消した。


「修道院送りで」


 その上で僕は二人を修道院に送り付けたのだ。

 人は全て平等であり、貴族も平民も差は無いと説いている宗教の修道院に。

 それで僕はこの件を不問とし、正式に自分が次期当主としての立場を絶対のものにした。


「ですが、いつか、彼らがディザイア様の敵になることもあると思いますが」

 

「その時はその時だよ」


 そうなるとしても僕が自分の甘さより代償を払うだけで。


「それに、君たちが僕にはいるからね。負けないでしょう?」


「それは当然です」


 僕の言葉にマリエは迷うことなく即答する。


「だから、良いのさ」


 僕自身が雑魚だとしても、自分には頼もしい部下が二人もいるからさほど問題は無い。


「まぁ、僕の元からマリエにフェーデが居なくなる可能性もあるけどね」


 とはいえ、何時まで自分の隣に二人が居てくれるか分からないからずっと安心、というわけでもないからね。

 よくわからん理由で一緒にいるフェーデはともかく、長き時を生き、穏やかな気性を持つエルフであるマリエはもうここまで来たら戯れに僕が死ぬまで付き合ってくれそうではあるが、それでも世の中に絶対というのないからね。


「……」


 いずれ、僕の元をマリエが去っていく可能性もあるだろう。

 僕なんて死にかけだったマリエに回復魔法をかけて応急処置をしてあげた程度だからね。

 一応、命の恩人ではあるが、だからといって永遠の忠誠心など期待出来るようなものじゃない。


「……ディザイア様も、私を捨てるのですか?」


「えっ……?」


 そんなことを僕が考えていた中、隣で何故か俯いていたマリエが何か、不穏なことをつぶやくのだった。

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