落日
所詮、カターシャの実家は子爵家でしかない。
僕がローアロス伯爵家へと会いに行くどころか、剣聖に竜までいる時点で子爵家では太刀打ちできないのだ。
自分がやる気になればすぐに片が付く……そんな当主継承戦だった。
「……愚かだな」
そんな状況を跳ね返そうと、武力行使にカターシャは踏み切ったわけだが、流石にそんな無理やりでうまく行くはずもない。
屋敷の掌握を出来ようが出来まいが、結果は変わらない。
「そして、無様だ」
最も、屋敷の掌握さえカターシャは出来なかったが。
手勢と共に僕の騎士たちの手によって捕まり、ロロノア男爵家の屋敷の地下にある牢屋へとぶち込まれたカターシャの姿を眺めながら冷たく言い放つ。
「……ッ!」
「身の丈にあった行いをしていればお前も助かったものを」
「は、ははは……何よっ!」
そんな僕に対して、カターシャは金切声を上げる。
「貴方のような甘ちゃんに何が出来るっていうのっ!?私だけ閉じ込めて何か出来るの!?アハハッ!貴方にとって私は何の関係もないただの他人でしょうけど、カルロは血のつながった弟であり、まだ子供っ!お前にあの子は殺せないっ!その時点で、結局のところ私たちの勝ちよっ!」
「……」
本当は、それでも良かったんだよ。
「そこまで弱くはないさ」
僕はため息を漏らしそうになるのを我慢し、そのまま視線を地下へと降りてくる会談の方に向ける。
「やめろッ!?離せっ!俺を誰だと思っているっ!?」
その時に、ちょうど、僕の騎士たちの手によって拘束されていたカルロがこの場に引きずり込まれてくる。
「か、カルロ……ッ!?」
そんなカルロの、自分の子供の姿を見て、カターシャは言葉を詰まらせながらの悲鳴を上げる。
「お、お母さんっ!?」
「そ、そんな……そんなァっ!?」
カルロは地下牢の中にいる己の母を見て、悲鳴を上げ、カターシャは想定外であろう息子の姿にただただ動揺を示す。
「さようならだ……僕は貴方のことがそこまで嫌いじゃなかったよ、お母さん」
嫌なやつではあった。
父上も、義母上も、カルロも。
たが、それでも……僕は彼らを嫌いになることは終ぞなかった。
やっぱり、僕は甘ちゃんなんだろうね。
「最後の時まで家族で過ごさせてやれ」
「この、離せっ!?俺たちをどうするつもりだァっ!下賤な生まれのお前がァっ!」
「……」
何処までも変われない自分を僅かながらに呪い、そして、今後への不安を抱えながらも僕は今もなお、暴れているカルロの隣を通り過ぎてこの地下牢を後にするのだった。
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