凱旋

 火の手の上がる屋敷を前に動揺が広がっている街の中。


「……」


 そこの大通りを僕は馬車に乗ったまま、堂々たる態度を進んでいっていた。

 言葉は特に語らず、ただ動揺は見せずに堂々と。


「……ど、どうすれば」


 そんな僕を前に民衆たちはどういう反応をとればいいのかわからず、ただただこちらの方を眺めてくる。

 もし、当主が僕でなく今、屋敷を制圧しつつあるカルロになれば、自分の凱旋で民衆が歓声を上げていた時には、この街に血の雨が降ることは想像に難くない。

 それゆえ、どうとも言えない反応を民衆は見せざるを得ない。


「で、ディザイア様が帰ってきた……あの人が、俺たちの当主でいいんだよな?」


「そうじゃなきゃ困る。ディザイア様はようやく俺たちの前に現れた希望なんだぞ?」


「こんな状況下でも落ち着いておられるとは……あのお方こそ、我らが上に立つ者として実に」


「お屋敷燃えているけど、大丈夫なの?」


「しっ。余計なことは言わないの」


「……ディザイア様っ」


「わ、我らが当主様はどうなるんだ……?」


「いや……見ろよ、ディザイア様はこの状況下であっても、あれだけ落ち着いておられるんだ。何の、心配もないさ」


 民衆たちのざわめき声を聞きながら自分の乗る馬車は進んでいく。

 馬車が向かう先は当然、屋敷である。

 

「ディザイアに近づくでないわ。無礼者ども」


 屋敷に近づくと共にカターシャの放った刺客等もやってきたが、それらは自分の隣にいるフェーデの魔法によって全員が一瞬で意識を飛ばされた上で騎士たちの手によって拘束されている。

 結局、僕は火の手の上がる屋敷にまで無傷で到着することが出来た。


「当主たる僕の帰還だ。掃除のほどを頼むよ」


 屋敷の前に着き、馬車からゆっくりと降り立った僕はの二人にではなく、騎士たちに向けて掃除を行うように命令を下す。

 フェーデからはぎ取ったうろこより作った国宝級の武具に防具を装備したうちの騎士たる彼らは、マリエから散々としごかれながら磨いた技術を振るう。

 彼らは少数なれど、カターシャが連れてきた手勢相手に負けることはないだろう。

 

「「「ハッ」」」


 僕は安心して屋敷のことを騎士たちに任せる。


「みんな、ただいま」


 そして、自分の護衛がマリエとフェーデだけになった僕は屋敷の周りに数多くいる民衆たちの方へと視線を向け、そのまま手を振り始める。

 そんな僕の後ろでは早速、自分の騎士たちがカターシャの連れてきた手勢と戦い始め、そのまま屋敷に広がる火を消していっていた。

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