火の手

 自分たちが戻ってきたロロノア男爵家の屋敷。


「えぇ……」


 そこから今、火の手が上がっている様子を街に入る前から確認することが出来た。


「何をしているんだが」


 王都から自分の屋敷のある街にまで戻ってきた僕は馬車に乗ったまま、自分の屋敷から上がっている火の手を見て困惑の声を漏らす。


「何が起きているのでしょう……?」


 僕に続いてマリエも首をかしげている中。


「お前の弟が暴れているのじゃ。どうやら、強引に武力で当主の座を奪おうとしているみたいじゃ」


 魔法で現状を容易に確認することが出来るフェーデの方が今、屋敷の方で何が起こっているのかを正確に教えてくれる。


「蛮行が過ぎるでしょ」


 いくら何でも、そこまでするか?

 相手があいさつ回りに出ていっている間に武力で当主の座を簒奪って……。

 それに、武力で簒奪するって言ったってどうやって?ロロノア男爵家の屋敷を奪ったところで、父上の埋葬はまだだし、当主継承式もまだ先だ。

 屋敷一つだけ奪ってどうするつもりだ?


「いかがなさいますか?私がすぐさま制圧してきましょうか?あの程度であれば五秒もあれば十分ですが」


 そんなことを僕が考えていたところ、自分の隣にいるマリエがこちらへと声をかけてくる。


「いや、このまま馬車に乗って街を凱旋しよう」


 そのマリエの言葉に対して、僕は堂々たる態度でもって口を開く。


「正当な当主は僕さ。ここで慌てる必要はないよ。ただ、僕は領民に顔を見せればいい」


 あまりマリエを全面的に押し出すのもね。

 今も自分の周りにはマリエとフェーデ以外にも護衛として数人の騎士が帯同しているし、屋敷の方にも騎士を配置している。

 彼らに一切の出番を与えないというのも問題だろう……まぁ、今更なような気もするけど、それでもこれから当主になるという人間が二人だけに期待し続けるのも問題だと思う。


「承知いたしました」


 そんな思惑を知ってか知らずか、マリエは僕の言葉に頷いて素直に下がる。


「余裕、ってやつじゃなっ!」


「そういうこと。余裕、余裕。これを見せてこそだよね」

 

 僕はフェーデの言葉に頷きながら馬車の席に深々と座り直す。

 今、自分が乗っている馬車は屋根が開かれたものとなっている。

 

「さぁ、領民たちに本来の当主の姿というものを見せてあげようか」


 隣に絶世の美女であるマリエとフェーデの二人を侍らせる僕は堂々たる態度を開放された馬車から晒しながら、火の手が上がる屋敷を見て騒然となっている街の中へと入っていくのだった。

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