謁見後

 謁見がちょっとばかり問題がありながらも何とか終わり、僕がマリエとフェーデと一緒に玉座の間から出てきた時。


「ディザイア様」


「ん?」


「他国に亡命し、そのままこの国を滅ぼしませんか?良い国ありますよ?」


「何を言っているの!?君!?」


 そこでまずは物騒なことを告げたのはマリエだった。


「賛成だっ!我もそうすべきだと思う!」


 そして、それに対してマリエの方も賛成であると力強い言葉を上げ始める。


「駄目だよ。そんなことするつもりないし、そんなこと二人が画策しているって知ったら二人を追い出すからねっ」


「……申し訳ございませn」


「うぅ……それを言われたら何も出来ないのだ」


 ただ、それを否定する僕の言葉には二人で頷いてくれる。


「僕は平穏に生活できればそれで十分なんだから……」


 侮辱された程度で話を大きくするなんて考えられない。


「それに、国王陛下の方も僕のことは考えてくれているみたいだし」


 わざわざ『当主』という言葉を連発してくれたからね。

 僕が最も欲していた言葉を正確に与えてくれた。

 それが聞けた時点で僕はもう満足なのだ。あくまで、自分の目的は当主になることであり、目立つためではない。

 むしろ、前世の感覚を引きずる庶民としては貴族社会で目立つなど御免被る……今更なような気もするけど、こういうのは気にしたら負けなのだ。


「このまま早く男爵領の方に帰るよ。当主になるため、ね?」


「承知いたしました」


「うむ。仕方あるまい」


 平和が一番。

 僕は暴れたそうにしている二人を押しとどめて自分たちの領地に帰っていくのだった。


 ■■■■■


 ディザイたちが玉座の間を出た後。


「本当にあれでよかったのか?」


 玉座の間に残った側である国王その人が、自身の隣にいる壮年の宰相へと疑問の声を上げる。


「問題ないでしょう」


 その疑問の言葉に宰相は力強く頷いて答える。


「剣聖と竜の怒りは間違いなく買いましたが……そもそもとして、世界を自由奔放に飛び回る強者二人のことなど気にしていてもしょうがありません。大事なのはその二人を飼い主がしっかりとコントール出来ているか、どうかです」


「確かに……あの二人は彼に対して信じられないほどに心酔していたようだったが、それでも肝心のロロノア男爵が我らに叛意を抱いたらどうする?」


「それは問題ありません」


「何故、そうも言いきれる」


「私は彼と密かに交流を持っていますから」

 

 彼は存外、庶民ですよ。叛意を抱くなんていう大それたことが出来るような人物などではないですよ───。


「彼については私にお任せを」


「……よかろう」


 ───そんな言葉をぐっと飲みこんで告げる宰相の言葉に、国王陛下は頷いた。

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