制圧
僕からの視線を受けるマリエはすぐに動き出す。
「わかりました」
一歩前に出ていくマリエはゆっくりと剣を抜き、静かにカルロの方へと近づいていく。
「ちぃ……おいっ!お前、女の影に隠れていて恥ずかしくないのかっ!」
流石に自分の部下が剣聖であるということは知っているのだろう。
己の方へと近づいてくるマリエを前に、全力で戦いに挑んでいくのではなく、及び腰で僕の方へと喚き声をあげるに留めていた。
「領主とは上に立つ者だ。使える者の力量も己の器量よ。僕には頼りになる部下がいるか……お前はそうじゃない。ずいぶんと、及び腰の連中であるな。お前の部下は」
そんなカルロに対し、僕は毅然とした態度で言葉を返していく。
「ぐぬっ……お前らァ!」
「す、すみません……ッ!」
貴族の子息が街を出歩くのだから当然、護衛は彼の傍に控えているに決まっている。
だが、その控えている肝心の護衛たちはマリエを前にかなり及び腰な様子を見せていた。
まぁ、剣聖であるマリエと戦って勝てる可能性など、万に一つもないわけで、彼らの態度には理解が出来るところもあるけどね。
「はぁー」
ただ、そんな彼らを前にしてただただ怒鳴り声をあげているカルロに僕はため息を吐く。
「マリエ。全員捕らえろ。少しばかり頭を冷やさせてやれ」
そして、僕はマリエの方に命令を一つ出してやる。
「ハッ」
僕の命令を受け取ったマリエは手早く動き、一切の容赦なくカルロの腹に蹴りを叩き込んで意識を吹き飛ばし、そのまま流れるようにカルロの護衛たちも気絶させていく。
その動きに一切の無駄はなかった。
「大丈夫だった?」
マリエが手早くカルロたちを制圧している中で、僕は自分の後ろにいるアイスを持っていた少女の方に視線を合わせるべくしゃがんでから声をかける。
「う、うん……」
僕の言葉に対して、泣きそうだったその少女は控えめな声をあげて頷く。
「それならよかった。じゃあ、はい。これで新しいアイスを買ってね」
「~~っ!」
それを受けて笑みを浮かべた僕は少女の方に僅かな駄賃を渡す。
「あ、ありがとうございます!これらに何とお礼を言えばいいか……!」
「いえ、大丈夫ですよ。さて、と」
そんな中で、自分の方に頭を下げてくる少女の母親の感謝の言葉に軽く頷いて見せた僕はゆっくりと周りを見渡す。
「諸君。この場で何が起きたのかを改めて聞いてもよいだろうか?僕は領主として、勝手なイメージで最終的な決定を下すわけにはいかないのでね」
そして、カルロがマリエの手で拘束されているのを背後に、僕はこの場にいる民衆たちへと事実のほどを聞いていくのだった。
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