対立

 現在十五歳である自分の二歳下の弟であるカルロ・ロロノア。

 そいつが今、一組の母娘に対して怒鳴り散らかしていたのだ。


「俺の服の価値がどれだけあると思っているっ!」


「申し訳ありません、申し訳ありません!」


 服にべったりとアイスをつけたカルロ、そして、アイスのコーンを手に持っている小さな女の子。

 そして、その小さな女の子に抱き着きながら謝り続ける女性の姿。

 これらの状況を見るに、アイスをもっていた少女がカルロにぶつかり、それであいつの服を汚してしまったという話だろう。


「えぇ一い!許すかっ!ここで殺してやるぅ!」


 そして、カルロはその怒りのままに母娘を殺そうとしているようだった。


「何をしているっ!」


 いや、そんなの見過ごすことは出来ねぇよ?

 僕はカルロと母娘の間を取り囲んでいる聴衆たちを押しのけて彼らの前に立ち、糾弾の声をあげる。


「誰がこの俺に話しかけている!?平民が声をかけていい相手ではないぞっ!」

 

 そんな僕に対し、カルロは怒鳴り声を向けてくる。


「誰が平民だっ」


 僕はそんなカルロの言葉へと言い返しながら、フェーデがかけてくれていた変装の魔法を解いて自分の本来の姿を取り戻す。


「……クソ兄貴」


 自分の姿を見るなりすぐにカルロの表情が歪み、忌々しそうに言葉を吐き捨てる。


「りょ、領主様……」


「下がっていていいよ」


 自分の姿を見るなり縋るような視線を向けてくる少女の母に対し、少し下がるように声をかけながら、カルロの前に立つ。


「そいつは領主ではないっ!俺こそが領主だっ!」


「お前が領主と名乗るなら、領民に対しての寛容さを持ったらどうだ?お前の豊かな生活は領民によって支えられているのだぞ?」


「誰が支えられているだっ!俺たち貴族が支えてやっているのだっ!」


「それとて事実だ。だが、それに胡坐をかいていいはずもないだろう」


「黙れっ!お前のような下賤な母より生まれたお前にはわからないだろうっ!?貴族としての在り方などっ!」


「……」


「俺の為に何もかもがあるのだっ!それこそが貴族のあり様!領民たちなど駒でしかない!」


「彼らも大切な一つ一つの生活を持つ一人の人間だ。全員は救えない。全員を掬い上げることはできない。だが、それでも一人でも多くの人を助けるのが僕たち貴族の在り方だ」


「何を甘いことをっ!」


「……やはり、お前とは、相容れないようだ」


 本当に、自分の父を見ているようだ。

 僕はカルロへの失望感を覚えながら。


「……マリエ」


 自分の護衛として立つマリエの方に視線を送るのだった。

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