視察
後継者の問題について頭を悩ませていた僕は一旦面倒なことを考えるのは辞め、街の方に視察へと出ていた。
現当主である自分の父上が亡くなり、それに対して自分の領民がどういう反応をしているのかを確認するための視察である。
「……マジで嫌われているんだなぁ」
というわけで、視察のために街を歩く僕は領民たちの喜びようを見て苦笑を浮かべる。
現当主が亡くなったというのに、領民たちはもう祝い事のように楽し気な笑い声を上げながら酒を飲み交わしていた、この真昼間から。
「せめて、仕事はちゃんとしてほしいんだけど」
昼間から酒ばかり飲んで……まぁ、楽しそうだからいいけど。
「ディザイア様が一生懸命仕事をしている最中にも不謹慎な奴らですね」
「彼らの笑顔を守るのが僕の仕事だから良いんだよ」
僕は自分の護衛役としてやってきているマリエの独り言に返答しながら歩を進める。
ちなみに今は、フリーデの魔法によって僕とマリエは変装している最中である。じゃないと僕はともかく、エルフのマリエとかは一瞬でバレちゃうからね。
魔法を使ったのがこの場にいるフリーデなのはマリエが魔法をあまり得意としていないからである。
「立派な当主様ですね」
「そう?僕は領民の金で育ち、今もそれで生活しているんだから。領民の為に働くのは当然でしょ」
自分の父親とかは駄目な例で、本来あるべき当主像というのは僕のようなあり方だろう。
「それでも、その在り方をもって当主として振舞える人物は立派ですよ」
「ありがとっ」
「それにしても、随分とこの街も活気づいてきましたね。私が初めて来たときはここまで人の往来がありませんでした」
「フェーデのおかげかな。ここの近くに出来た温泉の帰りに税金がない分安くできている商品を観光客が買っていってくれるんだ」
うちの領地にやってくる人自体が増えているからね。
移住者もちらほら現れ始めている。
「……なるほど」
「この調子で成長してくれたらいいね」
「えぇ、そうですね」
まぁ、今後も僕が当主を続けているかはまだ未知数なところがあるけど。
正直に言って、周りを押しのけてまで当主の座に居座る気はあまりない。そこまでの覚悟を自分の中で固められてはいない。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」
何てことを考えていた時、自分の耳にとある女性の悲鳴が聞こえてくる。
「何っ!?」
それを受け、僕はその悲鳴が聞こえてきた方へと素早く向かっていく。
「お待ちください!?この子だけはっ!この子も無礼がしたくてしたわけじゃ!」
「お母さん……」
「たわけっ!この娘が俺の服に汚い食べ物をつけたんだぞ!?それが許せるものかっ!」
その悲鳴が聞こえてきた方では、一人の男が許しを乞うている母娘に対して怒鳴り散らかしている最中だった。
「……何してんだ、あいつ」
そして、その怒鳴り散らかしている一人の男は、自分の弟である奴だった。
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