甘ちゃん

 貴族の御家騒動。

 

「当主の立場を求めて争いを始めた兄弟の末路なんて決まり切っている」


 当主が決まった後も兄弟同士で仲良しこよしなんて出来ない。

 自分と当主の座を奪い合った相手など不穏分子でしかなく、この世界では争い合った兄弟を殺すことが当主となった後に殺すことは当たり前となっている。

 魔法のあるこの世界では、個人で情勢をひっくり返すことも可能なのだ。

 もし、負けた相手が禁術などに手を出す可能性なども考えると、処刑してしまうのが一番だよね、という価値観なのだ。


「そうですね。ディザイア様は弟君のことを処刑することになるでしょうが……それの何が問題なのですか?」


 マリエはそんな僕の考えに同意を示し、その上で何の問題があるのかと疑問の声を上げる。


「……僕は、結局のところ、何処までも甘いんだよ」


 この世界で生まれてもう十数年は経っている。

 でも、自分の価値観は前世の頃から変わっていない。死が当たり前のようにありふれているこの世界に、僕は未だ順応が出来ていない。


「僕は、誰かが死んでいるところを見たくないんだよ」


 戦争だってまだありふれているし、奴隷の売買だって当然のように行われている。

 貴族が下の階級のものを戯れに殺すことだってあるし、荒くれもの同士のけんかで死者が出るなんて当たり前だ。

 この世界で人の命の価値などさほど高くない。

 誰もが安全を享受できることを目指せる遥か高度に文明が成熟している地球とは比べようもない。


「……ディザイア様」


「甘い、ってのはわかっているさ。でも、こればかりは……ちょっとね」


 慣れない。

 ましてや、自分で相手を処刑するなど……。


「いえ、それもディザイア様の良さにございます……嫌なのであれば、更迭くらいで済ませてしまえばよいのではないですか?」


「周りが許してくれるかな?特にローアロス伯爵閣下とか。弱腰の当主として見られるのは困るよね」


「……そう、ですね」


 貴族とはメンツの生き物だ。

 周りの貴族とは違う行動をとるのはリスクを孕む。


「別に、引いてもいいんだ。僕は……自分が当主じゃなくなっても、マリエはついてきてくれるでしょ?」


「もちろんにございます。私はディザイア様に何があろうとも、必ずついていきます」


「ふふ……マリエとフリーデの二人と世界を自由に見て回るのも楽しそうだよね」


「えぇ、そうですね……っ!楽しそうな話です。二人きりであれば特に」

 

「僕をハブらないでよ」


「いや、ディザイア様ではなく……」


「あぁ……本当に。もう少し、あいつが」


 マリエと言葉を交わしながら、自分の弟について考える僕は表情を歪めるのだった。

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