バチバチ
自分の義母であるカターシャと向かいあう僕は内心バクバクだった。
向こうさんは自身の息子である僕の弟を当主にしたいと考えているはずで、それと向かいあう僕の立場の複雑さよ。
「ここまで来て用がないわけじゃないでしょう?」
「あっ、お帰りの馬車について心配なさっているのですか?それならばご心配なく。お二人で、子爵家の方に帰れるように手配しておりますので」
ただ、それでも現役で当主代行を務めていた者として一切引くことはなく向かい合っていく。
「今、用が新しく出来たわ」
「何でしょう?」
「その馬車についてよ。キャンセルしておいて。私たちは帰るつもりなのわ」
「えぇ……いいでしょう」
帰れや、お前ら。
自分の生家である子爵家の方で死ぬまでお世話になっていてくれよ。
「それで?帰らずしてどうなさるつもりですか?あいにくと、我が家の屋敷に滞在しているの爺やに僕。それと護衛として剣聖に竜の二人しかおりません。お二人の面倒を見られるような態勢ではありませんが」
「見栄を張る必要はないわ。お前の元に、あの剣聖に竜がいるわけないでしょう?その二人を退けておきなさい。私が実家の方を頼って使用人を見繕っておくから」
「おやおや、ローアロス伯爵閣下もお墨付きの事実なのですが、彼が嘘であると?」
「うそつきはお前だけよ」
ボケナスがよぉ、ちゃんと現実を見てくれや。
マジで現実見てくれない人間の対処とかどうすればいいんだよ。
「ディザイア様」
僕がカターシャと向かいあっていた中、急に天井からさも当然のような面でマリエが降りてきてながら自分の名を呼ぶ。
「……はっ?」
「何?マリエ」
「ご報告があるのですが……こちらの女性は?」
呆然とするカターシャをよそに、マリエは状況を動かそうとしていく。
「そうだね……すみませんが、今のところは退出なさってください。まだ、当主代行の任は解かれておりませんから。父上は未だ、この大地へと眠っておられません」
「……また来るわ」
そんなマリエのバトンを受け取った僕はカターシャへと帰るように促し、それに彼女も従って扉から出ていってくれる。
「はぁー」
部屋にマリエだけとなった段階で僕は深々とため息を吐く。
「ディザイア様。わざわざあの人間へとまともに取り合う必要などないのでは?貴方様には私がおりますし、領民からの支持も高いでしょう。向こうが何であれ、当主の座を奪われることなどないでしょう?」
「……貴族の御家騒動ってのは、重いんだよ」
そんな自分へと告げるマリエの言葉に対し、僕は表情を歪ませながら静かに答えるのだった。
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