観光業

 モースクさんへと大量に売りさばくことに成功した宝物類。


「イヒヒヒヒ……」


 それらの売り上げを前に僕は気持ち悪い笑みを止めることが出来なくなっていた。


「これだけあればもう何でも出来るじゃないか……っ!温泉街でも作ろうかなぁ」


 宝物を売ることによって得られた利益は現在の我が家における年間収益の十年分である。

 これらを用いれば、領地の再開発を行えるようになるだろう。


「まず、手っ取り早いのは観光業だよなぁ」


 うちの領地の問題点は火を見るよりも明らか。

 ありとあらゆる産業がなく、まともに金銭を生み出せていないことだ。

 今のところ、うちの領民たちは細々と農業で何とか自分たちの食い扶持を賄って生活している層がほとんどである。

 露店等でも、お金を用いた売買ではなく、自分が作った作物等での物々交換であることが多い。


「……うち、土壌ゴミなんだよなぁ」


 そんな状況の癖して、肝心の作物を育てる土壌が死んでいるのが我が領地である。

 農業の不作が毎年のように起こり、大量の飢餓者が出ているのが現状だ。

 何とか、農業以外の産業もこの領地に根付かせたい……っ!


「ねぇ、フェーデ?」


 報告書を見てうんうん唸っていた僕は自分のすぐ後ろ。

 自分を後ろから抱きかかえるようにして座っているフェーデのことを僕は呼ぶ。


「ん?なんじゃ?」


 僕を自分の膝の上に置き、こちらの膝をずっとすりすり撫でているフェーデは自分の言葉に反応する。


「君ってさ、観光物になるかな?」


「……うむ?」


「いや、さ。うちってさ、温泉出るんだよね……でも、流石に温泉一つじゃ今更有名な観光地に出来ない、って思って。だから、竜であるフェーデを浸からせたりしたらさ、何かしらの効能が出るかな?って思って。確か、フェーデって体から常に竜の持つ特殊な魔力が漏れているから、自分の残り湯は体にいいんだっ!って言って僕と一緒にお風呂へと入ろうとしていたよね?」


「い、いや……確かそうではあるが」


「あ、後さ。フェーデのうろこって売れるよね?竜のうろこ何だし。一枚一枚剥がせば……っ!」


「待つのじゃっ!?一体我をなんじゃとっ!?」


「えっ……?皿洗い?」


「……任せるのじゃ!いくらでも人間どもを呼び寄せてみせるのじゃ!で、でも……流石に我のうろこはちょっと」


 どうやら、フェーデは皿洗いよりも客寄せパンダの方が良かったみたいだ。


「そっか……でも、わかった!それじゃあ、温泉の件はお願いねっ!」


「うむ!任せるのじゃっ!しっかりとディザイアの役に立ってみせるのじゃ!」


 自分のお願いを聞いて、うろこのことは引いてくれた。

 それを受けて上機嫌になった簡単なフェーデは意気揚々と僕の言葉に頷いてくれるのだった。

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