評価

 自分が宿泊していた宿へと一切のアポなしで訪れてきたロロノア男爵家の実質的な当主へと若くして君臨しているディザイア・ロロノア。


「ふぅー」

 

 そんな彼が部屋から出ていくのを見送ったクエルポ商会の商会長であるモースクは深く息を吐く。

 

「まさか……あそこまでとは」


 そして、モースクは素直な感想を口にする。


「彼の、隣にいたのはあの剣聖と竜でしょうか?」


 そんなモースクへと彼の側近である秘書、ニーナが疑問の声をぶつける。


「恐らくそうだろうな……どう見た?」


 秘書の言葉に頷くモースクはそのまま自身の護衛として同伴していた男の方に視線を向ける。


「レベルが違います。斬りかかっても三秒で殺されるのがオチでしょう。それだけの力量差を感じましたね。竜だけではなく、剣聖の方も格が違いますね」


「そこまで、なのか?我らの有する護衛団が束になって戦いを挑めばどうなる?」


「壊滅させられるでしょうね。流石に善戦は出来るでしょうが、負けますね。勝ちを拾える可能性など、万に一つもないでしょう」


「そうか……いや、妥当ではあるのだがな」


 大商会のトップの護衛に相応しいだけの格をしっかりと持っている実力者でさえも格が違うという評価を下した護衛二人を連れているディザイアのことを再度、思い浮かべるモースクは頭を抱える。


「……彼、本人はどうなんでしょうか?竜を実力で平伏させたという情報も流布してますが」


「どうでしょう?弱いとも、強いとも……本当に何も感じられませんでした」


「竜を実力でねじ伏せたというのは嘘だろう。少なくとも、あの場ではな」


 ローアロス伯爵と竜の対面する場にもしっかりと自分の手の者を送り込んでいるモースクはあそこで何が起きたのかを正確に把握している。

 とはいえ、瞳が綺麗だからという理由で竜が付き従ったというのはあまり信じられていないが……。


「では、彼自身の評価は?」


「……わからん」


 秘書の疑問にモースクは困り果てたような表情で首を横に振る。


「色々な人間と会ってきたが、あそこまで底の見えない人間は見たことがない。実力の面など私の目にはさほどわからん。だが、それ以外の目利きは出来るつもりだ。その上で言おう。彼の評価は本当に出来ないのだ……」


 ディザイアの表情は一切変わらない。

 何処までも柔和な笑みを浮かべているだけだ。

 その底は一切見透かすことが出来ない。


「ただ何も考えていない愚者か、それとも儂如きでは測れぬ稀代の英傑か……このきな臭い世界を、変えられるだけの実力を持っているのかもしれんな」


 そんな人物を前に、モースクは背筋が凍るような思いを覚えながら、素直な感想を口からこぼすのだった。

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