商会長

 目の前にいる恰幅の良い好々爺と言った感じの男性。


「どうも、初めまして」


 その彼こそがクエルポ商会のトップであるモースク・ファキエースだ。

 僕はそのモースクさんへと綺麗に一礼して挨拶の言葉を口にする。


「これは、これはご丁寧にありがとうございます。ロロノア男爵閣下」


 そんな僕へとモースクさんも挨拶の言葉を返してくれる。


「どうぞ、そちらにお座りくだされ」


「失礼するね」


 貴族として僕は敬語を使わず、平民としてモースクさんは敬語を使う。

 そんな僕たちは言葉を交わしていく。


「ローアロス伯爵閣下の要請に従い、多くの宝物を販売してくれたようで。近隣の当主であり、ローアロス伯爵閣下と共に竜の問題に対処した一人としてお礼を告げさせてもらうね」


「いえいえ、こちらも儲けさせてもらいましたから……ところで、結局のところ、竜はどうなったのでしょうか?」


「何じゃ?見てわからぬのか?我はここに……」


「フェーデ?」


「……むぐっ」


 僕の言葉に従い、フェーデは慌てて口を紡ぐ。


「見ての通り、彼女だよ。竜は今、僕の配下となってくれているよ。それと、彼女の名前はフェーデだ。是非とも竜なんていう無粋な形で呼ぶのではなく、名前で呼んでやってくれ」


「おぉ……そうでしたか、それは失礼いたしました。フェーデ殿」


 竜を前にしても、一切モースクさんは動揺を示すことなく穏やかな態度を保ったまま、フェーデの方に挨拶の言葉を告げる。

 彼の側近として立っている女性の秘書さんとかは目に見えての動揺を示したんだけどなぁ。

 流石は大商会のトップというわけか。


「ところでモースクさん。大量の宝物をローアロス伯爵閣下に販売されたらしいけど、商会の方の在庫のほどは大丈夫?フェーデ曰く、竜の目覚めというのは連鎖することもあるらしいのだけど」


「そうなのですかな?」


「えぇ。まぁ、確定的なことはわからないけど。ただ、歴史上。幾つもの竜が同時に目覚めた例は多くある」


「それに、まさか訳があるというのですか?」


「純粋に膨大な魔力が吹き荒れるという事象そのものが竜にとって目覚まし時計のように感じられるらしいよ」


 知らんけど。

 別にフェーデにもそんなこと聞いていないけど。


「おぉ、そうでしたか……でしたら、」


 よし……っ!乗ってきてくれたっ!

 

「うちには宝物類が多くあって。それを買い取ってくれる商会を探しているのだけど、クエルポ商会は如何?」


「そうですね。是非とも買い取らせていただきましょう。ロロノア男爵閣下から買い取り可能まですべてをお願いしましょう」


「ありがとう。実にいい商売が出来そうだ」


 エルフの剣聖と竜に睨まれながら平然とぼったくりなど出来るはずがない。

 これはもう勝ったも当然っ!

 よしよし!マジで助かったっ。これで三食、食べられそう……!


「それでは自分はここで失礼するね。いきなりやってきて、多くの貴方の時間をとるのも申し訳ないから」


「いえいえ、実に素晴らしい話になりましたとも。会いに来てくれて感謝申し上げますよ」


「そうだったらよかった。それじゃあ、また」


「えぇ、またよろしくお願いします」


 僕はモースクさんとの挨拶を交わした後、席を立ちあがってそのまま彼の滞在している宿を出て、自分の屋敷へと帰る道を進んでいくのだった。


「ところで、我は言っていたか?うちら生態のことを。他の竜が起きると本当に目覚まし時計のように感じられるんだよなぁ。本当に煩わしいのよ」


「えっ……?」

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