挨拶
うちの国の中でも随一と言えるだけの資金力と規模を持った大商会の長。
商会長が大事な商談から王都へと帰る道中に自分の領地を通ることを知っていた僕は今。
「初めまして」
「誰だ?ここは我らが商会長様の貸し切りとなっている宿であるが」
その商会長が宿泊している宿の前にやってきていた。
そこで僕がまず初めにぶつかったのは宿の前で門番としての役目を果たしている商会長の私兵である。
「いえ、この領の当主として挨拶をしようかと」
僕は私兵二人を前に穏やかな笑みを浮かべながら、彼らへと声をかける。
「領の当主?申し訳ありませんが、だとしてもアポもなしに入室を許可するわけには……」
ちなみに、僕が護衛役として連れてきているのは二人だけである。
「……待て」
「どうした?」
「確か……この目の前にいる弱そうな少年はそれでも竜を平伏させるような化け物だったはずだ」
「はっ……?」
「俺らがここで断れば……いや、断れないぞ。竜を平伏させるような相手に」
あっ、そっち?
僕は門番二人の割と丸聞こえのこしょこしょ話に内心でツッコミの声を入れる。
護衛役として連れてきたマリエでも、フェーデでもなく、こっちに畏怖が来るのね?
全然、竜そのものを恐れてくれてもいいんだよ?僕の隣にいるけどね?竜が。
「す、少し。上に話を聞いてきます」
なんか勝手に僕に対する勘違いが極まった結果、私兵のうち一人が上へと確認に向かってくれる。
「……ありがとう」
結果オーライではあるけど、なんだかなぁ。
「煩わしいのぅ。こんなの無理やり侵入してしまえばよかろうに」
なんてことを思っている僕の隣でフェーデがいきなりとんでもないことを言い始める。
「相手は大商人なの。無理やり侵入なんて許されるはずないでしょう?何もこれは誰であってもそうだけど」
「商人など、我に頭を垂れて宝物を垂れ流すだけの存在じゃろう?それに遜る意味がわからないのじゃ」
「それはフェーデが竜だからね。人間と竜の基準を一緒にしないで。後、君が僕と行動を共にするならしっかりと人間の規則に守ってもらうからね。じゃないと、一緒にはいられないから」
「わ、わかったのじゃ」
「じゃあ、静かに、ね?」
「……」
笑顔で竜へと念押しする僕の言葉にフェーデは首を縦に振って同意してくれる……マジでフェーデの僕の瞳への執着は何なんだろうか。
ちょっと怖くなってくる。
「よろしい……すみませんね。うちの連れがうるさくて」
何てことを思いながらも僕はそんな様子をおくびにも出さず、さも余裕といったような態度で私兵へと謝罪の言葉を口にする。
「は、はい……」
そんな僕の言葉を聞く私兵は頬を引きつらせながら頷いてくれるのだった。
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