宝物

 自分の前に現れた竜。

 ゲームで見れば確実にテンションが上がっていたであろう、空想上の生き物である竜を実際の現実で見た僕は。


「……」

 

 そもそもの生物としての格が明らかに違う、威圧感のある竜を前に僕はただただ体を硬直させることしかできなかった。


「よ、ようこそお越しくださいました」


 そんな中で、ローアロス伯爵閣下は竜の前へと一歩前に出て声をかけに行く。


『うむ。我との契約。しかとこなしたようじゃな。中々に多くの宝物を集めたようじゃ』


 竜はローアロス伯爵閣下の言葉に対し、横柄な態度で頷きながら、その視線を自身の下にある大量の宝物へと送る。


「えぇ……貴方様の為にこれだけの宝物を用意させてもらいました。お気になされたでしょうか?」


『うーむ。どれも、一級品の品々ばかり。よもや、これだけの期間でここまで高品質なものを多く取り揃えられるとはあっぱれじゃ。褒めて遣わす』


「ありがとうございます」


 僕が固まっている間にも、ローアロス伯爵閣下と竜は言葉を交わしていく。


「これで、ご満足頂けたでしょうか?」


『うむ。概ねは』


「それでしたら、ほっといたしました」


『じゃが、これだけ頑張れたのだから……』


「えっ……?」


『もうちょっと頑張れるのではないか?此度は一週間じゃなく、一か月やるぞ?』


「んなっ……」


『なんじゃ?無理であるか?』


「い、いえ……努力はいたしますが、ま、満足したのではなかったのですか?」


 うわー、大変そう。

 ある程度、竜の威圧感というものに慣れてきた僕は既にこの場を冷静に俯瞰できるようになっていた。

 そんな状態の僕は今、何とも他人行儀な感じでローアロス伯爵閣下を見て同情の声を内心で上げていた。


『うむ。満足はした』


「で、でしたら……」


『じゃが、我の欲に果てはない。もっと得られるのであればもっと欲すまで。何も、ここまでとは言わない。ここら周りにいる人間の力も借りれば……んっ?』

 

 周りをゆっくりと見渡しながら言葉を告げている竜。


「……んっ?」


 そんな竜と僕は視線があったような、そんな気がして首をかしげる。

 その瞬間だった。


「何っ!?」


「……ッ!?」

 

 突然、竜の体から大量の煙が吹きだしてその場全体を覆い隠してしまったのは。

 それらの煙によって、ここらにいる全員が動揺の声を上げ、その例に漏れず、僕も動揺の声を上げる。


「童、随分と美しい瞳をしておるなぁ?」


「えっ……?」


 その煙が晴れた時には、自分の前に立つ見知らぬ女性が僕の顎を掴んで強引に上を向かせているのだった。

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