伯爵家

 大量の宝物を馬車に乗せ、護衛としてマリエを一人だけ連れてローアロス伯爵家へと向かっていた僕は今。


「やぁ、初めて会うね。新しい若きロロノア男爵家の当主よ」


「お初目にかかります。ローアロス伯爵閣下……自分はまだ嫡男でしかないですが。父上は病気を理由として休止中につき、自分が代行中にございます」


 早速、ローアロス伯爵家の現当主である・ローアロスと面会していた。


「はっはっは。そうだったか」


 ローアロス伯爵家の応接室に招待された僕の前に座る巨漢。

 僕の首なんか軽くねじ切れそうな筋肉に覆われたぶっとい腕をもつその男、ローアロス伯爵その人であるその男は、僕の前で豪快に笑ってみせる。


「それにしてもあの、剣聖とは……こうして対面するだけでわかる。想像を絶するほどの強者よな」


 ローアロス伯爵閣下は自分の隣にいるマリエを見ながら感嘆の声を上げる。


「えぇ、本当に。自分は部下に恵まれたようでいつも助かっております」


「謙遜することはない。部下の格は主の格だとも。一度だけ会ったことのあるあの幼子がこんな傑物に成長するとは、実に素晴らしきことだな」


「恐れ入ります」


 随分とご機嫌なローアロス伯爵閣下の言葉に僕は恭しく頷く。


「それで?本日はどんな要件で?」


「早速本題に入りますと、ローアロス伯爵閣下の領内にいる竜が目覚めた件についてです」


「あぁ、それなら書簡で見たな。何とも、男爵家で有する宝物を竜の為に、とのことらしいが」


「えぇ、そうです。生憎と我が家には誰かのおかげでそれらの財産が多くありますので、それを国のために活用出来れば、と」


「それはありがたい話だな。だが、当家としても現在、商人より大量に仕入れている最中であると共に、竜の被害に対する補償もしなければならない。故に、全てを買取、という訳にはいかないのだが大丈夫か?」


「問題ありません。金銭を求めての行為ではありませんので」


 そも、売れないし、うちだと。

 というか、竜が好むである宝石や貴金属類の他にも我が家には大量の宝物があるのだ。

 絵とか壺などと言った芸術品がね。

 維持費も馬鹿にならんし、少しでもいいから減らしていきたい。芸術品だけでも売れればまとまったお金になる。


「実にありがたい……感謝する」


「いえ、これも国を思ってのことですから」


「これから、君とはいい関係を築けそうだな。国のため、共に尽くす同士として」


「もちろんにございます」


 自分の目的であったローアロス伯爵閣下に恩を売り、自分の立場を底上げする。

 その目的が達成されたことを示すように、僕はローアロス伯爵閣下と熱い握手を交わすのだった。

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