使い道

 自分の元にやってきた報告書。

 それは隣の領地を治めるローアロス伯爵家からの助けを求めるような書類であった。

 何でも、自領の中で長い間、眠りについていた竜が目覚めてしまったようなんだ。


「……竜か」


「そうだよ、竜だよ」


 竜。

 それはこの世界に存在するありとあらゆる生命体の中で最上位に位置する種族。

 生まれながらに完成された圧倒的な力を持つ暴力の化身。

 それこそが竜であり、人類など彼の存在を相手にすればもうただただ頭を垂れて災害が過ぎ去るのを待つのみ、といったような相手である。


「私が竜を殺したときも非常に苦戦させられました。しぶとい上に一発、一発の攻撃が重いですし」


「……流石です」


 まず、竜を殺したなんていう発言が出てくること自体があり得ないことだからね。それを言えるのがこの世界に何人いるのか、という話である。

 如何に自分へと仕えてくれているマリエが化け物なのかが再確認できる。

 ちなみに、ゲーム本編では割と竜は簡単に殺されますね。

 ゲームの主人公やその周りにいる連中はどれもが化け物ぞろいだ。


「いえ、ディザイア様には及びませんよ」


「んっ……?」


 及ばないことないだろ。

 僕が竜と向きあえば一瞬で炭だぞ。


「それで?その竜の話が一体、ディザイア様に何の関係があるんです?」


「竜は宝石や金などのキラキラとした宝物を好むんだよ。彼らが満足できるだけの財物を集められれば、その時点で竜は満足して眠りに入る」


「……あぁ、確かにそんな性質もありましたね」


「だから、竜に自分の持っている大量の宝石や金を受け渡すのさ」


 うちの箪笥の肥やしになっている宝石や金などの高価宝物を竜のねぐらの肥やしに変えてしまうのだ。


「それをして、ディザイア様に何の得が?」


「借りを売れるんだよ」


 腕っぷし以外は割とポンコツな節があるマリエへと僕は自分の考えを懇切丁寧に説明していく。


「結局のところ、政治の世界ってのは貸し借りを前提にした人間同士の掛け合い。伯爵家にまだ若い僕が顔を売るだけでなく、貸しも売れる。これはデカいんだよ」


「そんなに?」


「もちろん。そもそもとして、自分の隣の領地が荒れていることを喜ぶ貴族はいないからね。飛び火してくる可能性もあるから。向こうはまともな当主が台頭してくることを喜ぶはずだよ。この動きは何事にも代えがたい金銭を与えてくれるはずだ」


「なるほど。そういうことなんですね」


「そういうこと。これでようやく肥やしじゃなくなるわけだ」


 どうせ、売れねぇしっ!商人たちはクソほどこっちを下に見ているから!


「ということで、準備をしないとね。向こうに行くための」


 僕はまず、ローアロス伯爵家に変身の言葉を書くため、一筆したためるのだった。

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