天啓

 露店への課税を取りやめた結果、領地の税収は減り、僕の食事は一日三食から二食になった。

 だが、その代わりに領地へともたらしてくれた利益は大きかった。


「楽市楽座……っ!」


 税金を取らなくなった結果。

 一部の露天商がこちらの領地へと移り、税金がなくなった分安くなった商品を求め、魔法を用いて山だって越えてみせる家の守護者たる強靭な主婦たちが押し寄せ、消費も増えた。


「やはり、織田信長は正しかったっ!」

 

 天下統一に近づいた織田信長の政策は正しかったというわけだ。

 楽市楽座の問題でもある周りの領地に影響を与えてしまうという点においても、元の影響力がゴミだったせいで大した問題にもなっていない。

 まさに完ぺきな一手だったかもしれない……っ!

 

「織田信長?」


 報告書を見て、ニマニマとしながら独り言を呟いていた僕の言葉に自分の執務室を掃除していたマリエが反応する。


「気にしないで。あと、わざわざマリエが掃除することはないよ?今日も魔物を狩ってきてくれた帰りでしょ?もう少しゆっくりしていなよ」


 僕はマリエの疑問を綺麗にはぐらかし、話をすり替えてしまう。


「いえ、ディザイア様が活動していた空気を吸い、出したゴミを頂くだけで私のこ……掃除が趣味ですので、お構いなく」


「えっ?前半、なんていった?」


 それに対して、凄い剣幕でマリエの口からまくし立てられていた『掃除が趣味ですので』の前の部分を聞き返す。


「お気になさらず」


「あっ、そう?」


 だが、しっかりとマリエに言葉をはぐらかされてしまう。


「領地が富めば、その他の税収が上がる……それらを上げれば、僕はお腹いっぱい食べられるっ」


 気になりはするが、それでも無視することに決めた僕は再び話を元に戻して、税金について再び考え始める。

 所得税等が増えてくれれば、いつかは僕も一日三食食べられるようになるだろう。


「税収が足りないのであれば、私の給与を下げてくれて構いませんよ。私はお金など要りませんので」


「いや、そういうわけにはいかないから……っ!マリエにさえ、給与を払っていないと思われると周りに印象にも関わるし。今後一切、うちに仕えようとしてくれる人がいなくなるよ」


「むぐっ……でしたら、毎晩。私がディザイア様に料理をふるまいますよ?」


「えっ……あっ、うーん。それは、ちょっと、心惹かれるなぁ」

  

 マリエは美人さんだ。

 美人さんの家で、その人から料理を振るわれるというのはちょっと、というかかなり魅力的な提案だ。


「いや、でも僕にも立場があるから……」

 

 だが、流石に領地を治める者が部下に毎日晩御飯を作ってもらうというのは不味いだろう。


「そうですが……それはそれとして、しっかりとディザイア様はご飯を食べてください。過度に領民を甘やかす必要もないでしょう。税金はしっかりと取り立てて問題ないかと」


「税金なんて少なければ少ないほどいいんだよ」


 歴史上、増税で滅んだ国は多々上げられても、減税で滅んだ国なんて少なくとも僕は知らない。


「必要な分は取る必要があるが、削れる部分は削らないと」


 とはいえ、税金を取らなくては治安を維持することも、経済活動を行う大前提であるインフラも、弱者救済も出来やしない。

 税金をどれだけ取るかという塩梅は非常に難しいところがあるよね。うん。


「父上の時代がゴミだったからね。僕の代である程度、持ち直さないと」


 領地がクソ雑魚ナメクジってのはゲームにおいて、僕がかませ犬として殺される最大の理由だった。

 主人公がうちに直接関わらなくとも、手軽に滅ぼせるからということで、どんなルートでも敵の攻撃によって真っ先に燃え上っているのが我が領地だ。

 ゲームの敵に手軽な感じで燃やされないようにするだけの力をつけさせなくてはならない。


「金は父上がため込んだ家財を売れば何とか出来るだろうし……っ!」


「……そうでしょうが」


 まぁ、その売り先が見つからないので永遠に箪笥の肥やしとなっているのだけど。

 僕は自分で言った言葉に対して、勝手に一人でツッコんで苦笑しながら、何気なく次の報告書へと手を伸ばす。


「んっ……?」


 何気なく手に取った報告書。

 それに書かれている文書を手早く読み終える僕。


「これだァッ!!!」


「……ッ!?」


 そんな自分の頭へと一気に天啓が下りてきた僕は勢いよく声を上げて立ち上がるのだった。

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