露店

 頭を抱えることしかできない僕だが、それでも仕事はしっかりとしなくちゃいけない。

 僕は当主として、しっかりと職務をこなすために小さなことから一つずつ積み重ねていくために慌ただしく動き回っていた。


「よしっと……」


 というわけで、僕は今、自分の護衛役としてマリエを連れた状態で一つの街へとやってきていた。


「ここが報告にあった街か……」


 周りの市民に自分が当主であることをバレないようにするため、本当に最低限の変装をしている僕は街をぶらぶらと歩く。


「確かに、違法的に運用されている露店でいっぱいだ」


 我が家は、というかほとんどの領地では露店等には課税している場合がほとんだ。

 僕の領地でも露店には課税を行っている。

 そのため、露店を出す場合は役所の方に届けを出し、しっかりと税金を払った上で運営しなければならない。

 だが、この街で運営している露店はその限りじゃなかった。

 この街で役所に届けられている露店の数はゼロであるのだが、大通りには多くの露店が立ち並び、人々が売買を行っていた。

 時折、この街の警備隊がしっかりと取り締まってたまには捕まえたりもしているらしいが、そもそもの警備隊が少なすぎて全然取り締まれていないみたいだ。


「……税は」


 僕は今、自分の領地で課せられている税金について頭を張り巡らせる。

 父上が課していたあまりにもえぐ過ぎる税金等をかなり撤廃して減らしているため、既に結構取り立てている税金の金額は減っている。

 ここから、露店を不課税にすれば……どれだけ、税金が減るかな?僕の食事を一食減らすだけで賄えるか?

 別に一食減るくらい、将来的に自分が死んでしまう未来を拒絶するための投資であるのならば別に痛くはないんだけど。


「楽市楽座……他領の露天商を引っ張ってこれるか?いや、引き込もう。人が少しでも増えるのであれば……っ」


 それで、その他の問題はこの違法的に運営されている露店には普通に販売が禁止されている品々も売買されていることだよね。

 それは何とかしなきゃいけない。

 裏取引はたとえ、金になったとしても無視していれば領地を毒のように蝕んでしまう。


「違法なものを売られるのは不味い……警備隊の方を違法なものを売っている連中に……いや、この街の警備隊は本当に最低限しかいない。そんな余計な業務までつめるか?」


 僕はぶつぶつと小さく独り言を漏らしながら自分の考えをまとめていく。


「何処か、動かせそうなところ。他家との境界部に割いている兵は引かせていいか。どうせ問題は起きないでしょ……起こすならとっくに動いているでしょ……よしっ」


 パパっと考えをまとめ終えた僕はそれらが実行可能かどうかをその場で立ち止まって考え始める。

 ……。

 …………。

 問題は、なさそうか?


「よし。マリエ。ある程度の方針は決めたよ。まずはこの街の町長の方へと会いに行くから。ついてきて」


「了解しました」


 僕の言葉にマリエはいつものように無表情のまま頷いてくれる。


「税金を減らすのであれば、私の給金を下げてもいいですよ?私は毎日のご飯があればいいですから」


「ありがとう。でも、流石にそれ以上、君の給金を減らすわけにはいかないよ。今の状態でも、君の実力には見合わない給金で仕えてもらっているんだから」


 マリエはいつも、財政のことを気にして、僕に給金を減らすように言ってくれているのだが、流石にそれへと甘えてしまってはおしまいだ。

 剣聖という世界最高峰の名誉を持つマリエを雇うなんて大量の金を積まなければ無理なのだ。

 それを僕が一回、命の危機にあっていたマリエを助けたことがあるからという事実だけで格安で雇っているのだ。

 こんな状態なのに、更に下げるなんて流石に許されない。

 もし、彼女に甘え続けたせいでマリエに愛想つかされてしまったら、もう僕の領地は終わりだ。


「……私としては毎晩くんかくんかさせてもらっているディザイア様の脱ぎたてパンティだけで満足なんですが」


「んっ?何か言った?」


「いえ、何も」


「そう……さて、と。僕はそんなことより少しでもこの領地をマシなものにしないと……っ!」


 頼もしい護衛のマリエを連れ、僕は今日も自分の前に山のように積みあがっているやらなくてはならないものに奔走されていくのだった。

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