第6話 サツキはオルカショーの安全責任者から外される

 その日、サツキは朝からイライラしていた。水原の人事権行使によりサツキはオルカショーの安全責任者から外されたからだった。しかし、それ以上にサツキを苛立たせたのは、人事権を持たない会社社長でサツキの実父の小湊ウヅキが、このことに大した抵抗を見せなかったことである。

 サツキは事務所でぬいぐるみ補充のための発注処理を行い、その日の仕事を終えようとした時だった。新人トレーナー三人がサツキの元を訪れた。

 新人たちは基本的に水原の息のかかった人たちである。サツキは態度はどことなくそっけない。

「どうしたの?」

「サツキさん、私たちでショーのシナリオを考えてみたんです。相談に乗ってもらえませんか?」

 サツキは軽くあしらうつもりであったが、オルカショーの話と聞いて、耳が強力にそっちの方向に吸い寄せられた。

「え、ショーのシナリオ?私に?私に相談?」

 高滝サトミがスケッチブックを広げた。

「ここでこういう風にライドして、チアリーディングっぽく決めたところで、ルーピングジャンプをさせたいと思います」

 サツキは目を輝かせた。

「ジャンプはカオルにやられた方がいいわ。あの子は身軽なの。ムラサキ、フジツボは安定してるからライドに向いている。スエツムは愛嬌があるから、観客に水をかけさせるといいわよ」

「へー」

 三人は感心しながらメモを取っていた。

「ちなみに、ムラサキ、フジツボ、スエツムは同じ血統みたいだけど、どうも、カオルは違ってて、誰が両親なのかわからないみたいなのよね」

「何だか源氏物語みたいですね」

「よく知っているわね」

 そこで、サツキが小腹が空いてきたが、そこで馬舘フウカが菓子を差し出した。

「あ、サツキさん。羊羹です。羊羹食べますか?」

「おいしそうね」

 サツキは羊羹を食べながら思った。新人たちが私を頼ってくるだなんて、ひょっとして人望あるのかしら?みんなで団結すれば水原にも対抗できるかもしれない。

「なんで、急に私のところに聞きに来たの?」

「水原さんが、サツキさんのところに聞きに行けって言っていたもので・・・ちなみに、その羊羹も水原さんからの差し入れです。」

 サツキは思わず羊羹をのどに詰まらせそうになった。


 その後、サツキはオルカショーの安全責任者に戻された。しかし、サツキはオルカ達に以前のようには近づこうとはしなかった。新人トレーナーたちとオルカ達の仕上がりが順調に思えたからだった。

 サツキはオルカのトレーニングを遠くから眺めながら思った。

「古い友人がいると、邪魔になるかもしれない」

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