第2話 観客の見える位置で嘔吐、史上最低最悪の状況

 約1年前、オルカとトレーナーが空中に飛ぶコンビネーションジャンプの練習中、サツキはより高さのある跳躍に取り組んでいたが、高く飛び過ぎて水槽の壁に強打。肋骨三本を折る大けがを負ってしまった。高さを求めたのはショーの完成度を高めるためだった。

 3カ月後、無事に退院したが、サツキの動きにはどこかぎこちないものが残っていた。サツキの心にはどこか恐怖心が残り、以前のような思い切った演技ができない状態となっていた。

 ある連休の昼のオルカショー。サツキまたしてもコンビネーションジャンプに臨んだ。空中から水槽の壁が視界に入った時、サツキの身体は硬直して動かなくなったからだ。そのまま、妙な体制のまま着水、頭や胸を強打してしまう。何とか水槽から這い上がったが、舞台裾へと引き上げる途中、サツキはステージの端で膝をつき、嘔吐してしまった。

 ちょうど、その時、オルカがルーピングボールキックの特大ジャンプを披露。観客の視線はオルカに釘付けになり、ほとんどの観客はサツキの異変に気づかれなかった。

 ショーの最中に観客の見える位置で嘔吐するという史上最低最悪の状況に顔面蒼白のサツキ。慌ててシャチの餌やりに向かうが、餌やりは他のトレーナーが済ませていた。その後、気力を振り絞って客の見送りをこなした。その日は、一目散に帰宅し、自宅で泣いた。

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