オルカトレーナー小湊サツキと地方銀行員の水原ホタル
乙島 倫
第1話 松の木の脇からオルカショーを眺める小湊サツキ
市原オーシャンランドのオルカショーの会場近くには、巨大な松の木が植えられていた。これは、オーシャンランドの開園前から存在した松である。
その日、午後の市原オーシャンランドでオルカショーが無事に終わり、小湊サツキは松の木の脇でアナウンスに聞き入っていた。
「今からちょうど千年前、菅原孝標一家がこの上総国から出発しました。松や杉の寿命は五百年と言われていますが、中には千年以上の寿命を持つものもあります。浜辺に見える松も、ひょっとしたら菅原孝標の娘の姿を見ていたかもしれません。皆様、引き続き市原オーシャンランドをお楽しみください」
市原オーシャンランドは、昭和のバブル期後半に開業した水族館で、オルカショーが有名である。経営は創業者一族で取り仕切ってきたが、新型感染症による旅行制限と創業者キサラギの死去により経営が一気に悪化。メインバンクの市原中央銀行が経営に直接乗り出す状況となっていた。
松の木の脇からオルカショーを眺めていた小湊サツキは、創業者小湊キサラギの孫娘で、オルカのトレーナー兼チームリーダーであった。今は事務作業を主に担当しているが、その日は、事務所から出てきてオルカショーを遠目から見守っていた。
たったいま、追加融資のための銀行団の視察が無事に終わった。サツキは胸を安堵させていた。たとえ、もう、この手でオルカ達の顔をなでることができないとしても。
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