第一章 第4話:昔の里を訪ねて

 幸明と月白が東へ向かう途中、彼らは懐かしい里に立ち寄ることにした。

 20年前、幸明と友月が伝染病の治療に尽力した場所だ。


 里に近づくにつれ、幸明の胸は高鳴った。

 「どんな変化があっただろうか」と、彼は心の中で呟いた。


 里の入り口に立つと、そこには見覚えのある顔があった。


 「幸明さん! 本当に幸明さんですか?」年老いた男性が驚きの声を上げた。


 幸明は微笑みながら応えた。

 「はい、久しぶりです。お元気でしたか?」


 男性は涙ぐみながら幸明に駆け寄った。

 「みんな、幸明さんが戻ってきたぞ!」


 すぐに村人たちが集まってきた。

 20年の歳月は皆の顔に刻まれていたが、幸明を見る目は昔と変わらず温かかった。


 「幸明さん、あの時はありがとうございました」

 「おかげで、私たちの里は救われたんです」


 感謝の言葉が次々と寄せられる。幸明は謙虚に頭を下げた。


 そのとき、村人たちの目が月白に向けられた。


 「この白狼は...まさか、あの友月さんでは?」一人の老婆が尋ねた。


 幸明は微笑んで答えた。「いいえ、これは月白です。新しい仲間なんです」


 村人たちは最初驚いたが、すぐに月白にも温かい眼差しを向けた。


 夜、幸明は村人たちと共に、20年前の出来事を振り返った。

 友月との思い出、伝染病との闘い、そして人と自然の調和の大切さ。


 話し合いの中で、幸明は里の変化にも気づいた。

 自然を大切にする意識が根付き、新たな世代にも受け継がれていたのだ。


 「私たちの子供たちにも、幸明さんの教えを伝えています」と、一人の若い父親が語った。


 幸明の目に涙が浮かんだ。友月との努力が、こうして実を結んでいたのだ。


 夜が更けると、幸明と月白は村はずれの小さな丘に登った。

 そこからは、月明かりに照らされた里の全景が見渡せた。


 「見てごらん、月白」幸明は静かに語りかけた。

 「ここでの経験が、私たちの旅の原点なんだ」


 月白は小さく鳴き、幸明の手に顔をすりつけた。


 幸明は深く息を吸い、決意を新たにした。

 「さあ、行こう。もっと多くの人々に、この大切な教えを伝えるために」


 二人の姿が、月明かりに照らされながら、次の目的地へと歩み出していった。

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