51話 しりたいこと
悩みに悩んでようやく研究者さんは1つに絞ったようだ。
「もし一つに絞るとしたら、ダンジョンが作られる際の力の源はなんなのかということだろうか」
「力の源……とは言い難いですが、ダンジョンを作る際に使うのはダンジョンポイントというものですね」
「ああ、さきほど声の話の時に出てきたものか」
「はい。それです」
ダンジョンは何をするにしてもポイントを使う。新しい階層を作るのも、モンスターを配置するのも、ドロップさせるアイテムにも、自分が使うスキルにも。ポイントがあればできないことは無いと言えるくらいなんでもできる。
逆に言えばポイントがないとなんにもできない。
ダンジョンに人がいた秒数分がそのままポイントとして手に入れられ、あとは他のダンジョンコアを壊してもポイントを手に入れられる。
わかっているのはこれくらいだ。
考えてみるとダンジョンポイントも謎に満ちている。
「個人的に使ってる感覚としては通貨が1番近いです。ポイントを支払って新しい階層を作る。ポイントを支払ってアイテムを購入する、みたいな」
「なるほど……それはずいぶんとダンジョンマスターにとって都合がいいな」
「都合がいい?」
「あぁ。ポイントを支払ってダンジョンの設定を行うとはまるでゲームみたいだろう?ダンジョンマスターに寄り添ったシステムだ。想像でしかないが、さぞ作りやすかったんじゃないだろうか」
チュートリアルがあったし、システム面で詰まることがなかったのは確かだ。
細かい設定とかシステム的に難しいことでもAIに頼めばやってくれる。さらに瑛士みたいにそもそもダンジョンを作れない人はこれもAIのサポートがある。
そうか。俺はデルタタイプのAIを選んで情報が少なすぎ、ダンジョンマスターに優しくない、なんて思っていたけど、むしろ優しすぎるくらいなのか。
「まぁ否定はしません」
「作る時に誰でも躓かないようになっている設計だ。よほどダンジョンを作らせたかったんだろうな」
「そもそもダンジョンが機能しないと侵攻とか侵略とか言ってられないですからね。でも結局、このポイントがダンジョンの力の源かと言われると、やっぱり違うような気がします。コアを破壊されるとダンジョンは消えますし、力の源と言うならコアの方が近いような気がします」
「コアか。私はまだ見たことがない。どんな形状をしているんだ?」
「紅色の1mくらいの球体です。大きさ以外は雰囲気的に魔石と一緒だったので、まずはそっちを調べた方がいいかもしれません。それか小嵜さんのところのダンジョンに潜れば実物を生で見れるかと」
俺は自分のダンジョンのコア部屋に人を1人も入れたくないので、コア見たいならそっちに行ってほしい。
本人すら場所を把握していないあのダンジョンは小笠原諸島の探索者とかダイバーに頼めば連れていってくれる筈だ。
海の中という難点はあるが、他のダンジョンよりコア部屋には辿りつきやすい。
「ふむ。参考にしよう」
「コアはともかく魔石は見たんですよね?その眼で。どんな情報が書かれてたんですか?」
「もちろん魔石も見た。どんな魔石もまず最初に魔石と表示され、その次のどのモンスターの魔石だったかがわかる。でもそれだけだ。真識眼は一目見れば名前を。瞬きせずにしばらく見続けると性質が徐々に開示されていくスキルだ。人を見た時はまず名前、その次に種族、称号……といったようにな。魔法のアイテムはその効果や含まれている魔力量、果てはそれに使われている成分までわかるというのに、魔石はわずかな情報しか見れなかった。ダンジョンの壁も壁としか表示されない。名前で隠し部屋の位置は見抜けるが、それが何で出来ているかはわからない。真識眼は万能ではないのだよ。だからこそダンジョンを調べて回っているのだけれどね」
……真識眼ってそんな感じなんだ。スキルの説明欄では見たものの性質を識れる目としか書かれていなかった。改竄スキルも効いていたし、物の本質まで見抜けるというわけではないのだろう。
魔石については特研の人たちの方が詳しそうだ。
ぶっちゃけダンジョンマスターに協力を求めるよりは特研に協力をお願いした方が細かいことはわかる気がする。ダンジョンマスターだからと言ってダンジョンの成分とかアイテムがどういう構造になってるかとかわからないし。
「そんなにダンジョンについて知りたい理由ってなんですか」
「知りたいと思うことに理由が必要かね。でもそうだな……初めてダンジョンに入った時に、私はダンジョンに魅入られたのかもしれない。だから調べずにはいられないんだよ」
俺がダンジョンマスターになった理由を弱いとか言ってたけどこの人も似たような理由じゃん。まぁ無駄に崇高な目的意識を持っている人よりはマシか。
「ダンジョンがただ好きなだけなんですね」
「あぁ。だから些細なことでも私が知らなさそうな事を教えていただけると嬉しい」
今回、教えられた情報量的には研究者さんよ方が多かったような気はする。真識眼というスキルについて詳しく教えてもらったし、声についての見解も聞かせてもらった。
対してこちらは相手が知りたいことはふんわりとしか伝えられなかった。
何かひとつくらい教えた方が関係性は対等になりそうだけど、この人が知らなさそうなことなんてあるだろうか。
ふと時計が目に入る。
あぁ、そうだ。流石にこれは知らないか。
「ダンジョンに設置されているオブジェクトが動かせないのは有名な話だと思います」
「ダンジョンではドロップアイテム以外は持ち帰れない。探索者の間では常識だな」
「えぇ。ダンジョンを作る時の項目がそもそも分かれているんですよね、それ。だから似たようなアイテムでも内装の項目から設置したものは動かせないし、ドロップアイテムの項目から設定したものは持ち帰れるんです」
「ほう」
「この机の上に置いてある時計は内装の項目から設置しました。本来なら動かせないはずですが……」
そう言って時計の向きを変えた。
「ダンジョンマスターなら何故か動かせます。どういう原理なんでしょうね、これ」
最近知った事を教えてみた。設置せずに手元に出した場合のことについては内緒にしておく。
「おお!いったいどうなっているんだ。そもそも内装の項目とドロップアイテムの項目があるならもしかしてモンスターの項目もあるのか。他にはどんな項目が。ゼロから百までダンジョンを作る際の手順を知りたいものだ。あぁ、前々からダンジョンに置かれている物が破壊できず、動かせないのは疑問には思っていた。時が止まる魔法でもかかっているのかと思っていたが、時を刻むこの時計が内装として置かれているということはそうではないのだろう。ダンジョンの階層を移動できる魔法陣には条件が設定できるのだから、ダンジョン内に置かれたアイテムにも条件が設定されていたのか。しかしそんな痕跡はみられない。やはりダンジョンには明らかに魔法以外の力が働いている。いや、そもそもスキルだってあまり原理がわかっていないんだ。例えば武器の扱いを補助するようなスキルは別に魔力が使われるわけじゃない。かと思えば魔法らしくないスキルでも魔力を使う時がある。そう考えると不思議な力の一部分を魔力として扱っているのか、それとも……」
1人でぶつぶつ言い出してしまった。
話半分にしか聞いていなかったが、魔法陣には条件が設定できるなんてどうやって知ったんだよ。それもその眼でわかるのか?
声をかけずにそのまましばらく待っていると、自分から今の状況を気づいてくれた。
「いや、失礼。気になることがあると周りのことが見えなくなってしまう時があるようでな。妹からも気をつけるように言われている」
「いえ、大丈夫です」
待ってただけだし。
「あぁ、もうこんな時間か。残念ながらこの後予定があってね。今日はもう解散しよう。キミと話せてよかった。また後日連絡させてもらう」
そう言うと研究者さんは人の話を聞かずにさっさと部屋から出ていってしまった。
なんというか……弾丸みたいな人だったな。
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