52話 特殊建造物の管理人への対処に関する法律案

研究者さんが出て行った後、念の為時間をずらして帰るために俺はまたダンジョンの作成画面を開いた。


さっき最下層まで行った時に、いくら攻略方法を知ってて敵には襲われず、多少モンスターに手伝ってもらったところがあるとはいえ1時間以内に辿り着いちゃうのはどうかと思ってたのだ。


だから物理的に距離を稼ぐために新しく24階層を作ることにした。


幅が1m道をしばらくまっすぐ繋いで、画面の端まで行ったら折り返し、また画面の端まできたら折り返し、を繰り返した。罠も作らず、分かれ道も作らず、ただひたすらに蛇腹状の道を繋いでいく。


道で視界がいっぱいになっても、たいしてポイントは消費されていない。つまり距離はあまり稼げてないってことだ。


作成中のマップを縮小すればまだまだ道を繋げられる。道はスタートからコア部屋に降りる階段まで1万kmかかるように繋ぐつもりだ。


地球の1周がおおよそ4万kmなので、その4分の1。もうちょいわかりやすく言うと成田空港からロンドンあたりまでの距離だ。


流石にどんなに体やステータスを鍛えた探索者でもこの距離を1日で突破するのは難しいと思う。


俺が1万km分の道を作るのもこのままじゃ1日で終わらなさそうである。


こういう時のAIだ。



「24階層の作成手伝って」


『承知しました。それでは手伝う内容を具体的に指示してください』


「現在作成中のものと同じ感じに蛇腹状に道を繋いで行って。道幅は1mから変えないこと。合計10万ポイント分消費したら次の階層に続く階段に繋いでいいよ」


『承知しました。しばらくお待ちください』



どんどん視界に道が増えていく。俺が時間かけて作った量が一瞬だ。最初からAIに頼んどきゃよかったかな。


数分待つと増えていた動きが止まった。



『完了しました。作成内容をご確認ください』



そう言われても確認できる量を超えているというか……道が細かすぎてそういう模様に見えるレベルだ。



「これ最初から最後まで1本道で、ショートカットとかはできないようになってるよね?」


『回答。ショートカットはありません』



じゃあもうこれでいいや。

AIの言葉を信じてこれで完了にした。


時計を見ると研究者さんが出て行ってから1時間以上は経っていた。これくらい時間を空ければ充分だろう。やることやったし今日はもう帰るか。


幽影の雑面は外し、隠遁者スキルを使いつつ、人がいないのを確認して隠し部屋をでた。そのまま外に出る。


隠遁者スキルはダンジョンの外に出た瞬間に自動的に切れた。

改竄スキルは一回外出てもステータスの改竄がそのままだったことから、たぶんスキルの効果がずっと続いてる。この2つのスキルの違いってなんだろうな。


研究者さんじゃないけど、俺もここら辺の差違には興味ある。今度あの人に考察を聞いてみようかなぁ。


なんてことを考えながら、帰り道を歩く。


信号待ちでスマホをなんとなく開いた。


あ、SNSで特殊建造物管理人とか緊急記者会見という言葉がトレンド入りしてる。特殊建造物対策局から何かあるらしい。この後19時から?もうすぐじゃん。ちょうど家に帰る頃には始まるかな。


特殊建造物対策局からってことはダンジョン関係なのは確実だ。テレビのない家に住んでる俺にとってはありがたいことに配信サイトで会見の様子を生配信してくれるらしい。


急いで帰ってちゃんと見るか。


家についてから配信を開くと、ちょうど人が来て凄い勢いでカメラのフラッシュが焚かれているところだった。



《今回は急な会見にもかかわらずお集まりいただきありがとうございます。特殊建造物対策局局長の髙間です。えー、お忙しい岩畑大臣に代わりまして本日可決されました特殊建造物の管理人への対処に関する法律案についてご説明させていただきます》



前に記者会見を開いていた檀関元局長はキリッとした印象だったが、新しく局長になった髙間という人は分厚いメガネをかけているせいかなんだかくたびれたおっさん感が漂っている。



《まずはですね、この法案が提出されました経緯からご説明いたします。特殊建造物の管理人、いわゆるダンジョンマスターと呼ばれる存在を認めたのがおおよそ2ヶ月前となります。えー、本来だったら対処を決めてから認めるところ、前任である檀関元局長の独断によってその存在が認められました》



長いので話をまとめると、元からダンジョンマスターの存在は確認しており、その扱いを慎重に話し合っていたが、檀関元局長が勝手にダンジョンマスターいると認めてしまったもんだから、急いで、より慎重に法案の内容を決めざるおえなくなったと。

そして昨日法案が提出され、今日それが可決。この法案の交付日も適用日も今日からということだった。


檀関元局長のあの会見は世間からは良く評価されていた。国が隠していた事実をよく言った、みたいな感じで。しかしこの会見を聞くとこっちは準備してたのに勝手なことをした奴、という言われ方をしていて、完全に悪者扱いされている。


いや、絶対にダンジョンマスターの存在を認められる前はその対処をどうするかなんて話し合われてなかっただろ。保護したいとか言ってたし隠す気満々だったじゃん。ダンジョンマスターを殺したい人達と派閥争いしてたじゃん。


あと法案を提出した次の日に可決されてるから、たぶん事前にいろいろと根回ししてたんだろうな。国民からいろいろ言われる前に全てを終わらせたかったように見える。


法案が可決されるまでの流れを一通り話すと、今度は肝心の法案内容について話し出した。


内容は大きく分けて4つ。


どの国民もランダムに選ばれてダンジョンマスターになる可能性があることから、日本国籍を持っているダンジョンマスターは日本国民として認めること。


コアを破壊されると死亡することから、ダンジョン内でモンスターを解き放ち罠を設置する行為は身を守る行為だと認め、ダンジョン内の死者や怪我人の責任は一才問わないこと。


ダンジョンが置かれている土地はダンジョンマスターの所有地ではないことから、ダンジョン内の物やドロップアイテムもダンジョンマスターのものではなく、それらは最初に取得した人のものになること。


今後ダンジョンの外にモンスターを解き放った場合は、それを国と敵対する行為だとし、速やかに身柄を確保。日本の法律に則り処罰を行うこと。


簡単に言うと、ダンジョン内の出来事の責任には取らせないから、代わりにダンジョン内のアイテムは探索者の好きにさせろって感じである。


今の状況とあんまり変わらない。


元日にダンジョンの外にモンスターを出現させた出来事はダンジョンマスター側にも情報が不足していたため、また法案の施行日が今日からであることを理由に全て不問になった。


氾濫があったダンジョンの近隣住民は流石に納得しないんじゃないか、これ。


ダンジョンマスター側の過去の出来事は一旦無かったことにして、ついでに政府がやらかした新宿ダンジョンとか群馬ダンジョンのことも全部無かったことにしたかったんだろうか。


法案の内容を話した次は質疑応答タイムとなったが、適当な記者2、3人のみに当ててロクな回答をせずに会見は強引に終わらせてしまった。


聞かれたくない事が多すぎるんだろうなぁ。


何はともあれ、ダンジョンマスターが日本国民として認められたということは、人権認められたということで、ダンジョン内に引きこもる必要も無くなった。


ダンジョンに恨みを持っている人の警戒は引き続きしないとダメだが、国と敵対する可能性はほぼなくなったようでよかった。


今回の会見ではダンジョンコアが破壊された場合の話がなかったという不安は残ってるけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る