50話 声

「聞こえてきた声はどんな声をしていた?2回とも同じ声だったか?」


「声色については思い出そうとしても思い出せないです。どこかで聞いたことのある、言われた内容がスッと頭に入ってくるような声だったとは思います。2回目に聞いた声は懐かしい感じがしたので、同じ声なんじゃないですかね」


「声のことを思い出せないのは人類側もダンジョン側も一緒か。キミがつけてるそれと同じように、声の認識を阻害する何かがあったのかもしれない」



見ただけでアイテムの効果までわかんのやっぱりズルいだろ。真識眼やばいな。完全に10万ポイントでとれる鑑定眼の上位互換だ。


てか、だったらさっきの時計は何をあんなごちゃごちゃと言ってたんだよ。効果を分かった上で疑問に思わずにいられなかったんだろうか。



「ステータスを与えたのはあの声ですからね。こちらが入手できるスキルを声が全て使えていたとしても不思議ではありません」


「全くもって同感だ。では次の質問にいこう。町田さんはどうしてダンジョンマスターになることを選んだのだろうか。ダンジョンの構造やそのステータスを見る限り、キミは相当安全マージンを取るタイプだろう。自分の他にダンジョンマスターがいるかもわからない状況で人類と敵対したらかなりの危険あると予測できる。そんな状況でダンジョンマスターになることを選ぶとは思えない」



どうしてダンジョンマスターになったか、か。


確かにあの時はダンジョンマスターになることのメリットが何一つ思い浮かばず、逆にデメリットとか危険性が次々と出てくる中で、気づけば<はい>を選んでいた。今思えば無意識に人と違う存在になることや非日常的な事象への憧れがあったのかもしれない。


なんだかんだでダンジョン運営は楽しいし、今あの時の選択を選び直せたとしても、やっぱり<はい>を選ぶ自信がある。



「例え危ないと分かっていてもそうなることを選ばずにはいられなかった、が感覚的に1番近いと思います」


「なるほど。確固たる理由があるわけではないんだな」


「まぁ、そうなりますね」


「となると不思議ではないか?小嵜さんがダンジョンマスターになった理由は寝ぼけていて。確か品谷さんは面白そうだったから。キミは選ばずにはいられなかったから。どれもダンジョンマスターになった理由が弱すぎる」


「逆に確固たる理由があってダンジョンマスターになる方が珍しくないですか。断った場合は記憶が消されるんだし、それが嫌でなることを選んだ人もいたでしょう。広島のところが確かそうだったかと」


「よく考えてもみろ。ダンジョンマスターになるということは人類が敵になるということなんだぞ。だったら記憶を消されたほうがマシまである。なのにわざわざ人類の敵になることを選ぶのだから元々人が嫌いとか恨みがあるとかいう理由があった方がまだ納得できる」



……この人はなにが言いたいのだろうか。


ダンジョンマスターなのに明確な敵意を持ってない人ばかりなのは変ってことか?まだ表に出てきてない3人のダンジョンマスターは人類に敵意を持ってるかもしれないだろう。


そもそも敵になることは決まったことではなく、あくまでそうなるだろうという予想に過ぎない。未来のことを深く考えずになることを選んだ人だっているはずだ。



「つまり?」


「こんなにも曖昧な理由でダンジョンマスターになる人がいるんだ。ダンジョンマスターになるかどうかの選択を迫られて、断った人間はどれくらいいたのだろうか疑問に思ってね」



なるほど。


向こうは人智を超えた存在というのは間違いないんだから、最初から断らない人をダンジョンマスターに選んでいてもおかしな話ではない。


いや、選択肢を用意しておきながら、選ばれた時点で断れないようになっていたのか?寝ぼけてはいを選んだなんてどう考えても変すぎるもんな。だとしたらトラップすぎるけど。



「もし仮に断った人がいたとしても記憶を消されているだろうから、探しようがないですね」


「その通りだ。確かめようがない。だからこの議論は一旦置いておいて次の質問に移ろう」



この議論をし出したのはあんたなんだけどな。



「町田さんは人類が聞こえてきた声の内容は知っているかな?」


「えぇ。全文把握しています」



人類の皆様にお知らせですってやつな。


人として振る舞う時に齟齬が出ないよう調べたし、ライセンス取る時にも改めて教わった。



「ダンジョンマスター側の言葉を聞いて少し疑問に思ったことがあってね。まぁおそらくそこがキミも気になってるところだろう。そもそも声がダンジョンマスターを選びダンジョンを作らせたというのに、人類にはダンジョンの侵略から守るように言っている。どちらも声の主が同じだったとしたらいくらなんでもマッチポンプすぎるだろう」


「そうですね。俺もそう思います。ダンジョンもそれを攻略するためのステータスも声から与えられている。1年間人が立ち入らなかったダンジョンはたった1日だけとはいえモンスターを外に出す権利を得た。声はダンジョンと人類を争わせたいように思えます」



これは前々から思っていたことだ。


ついでに言うなら、モンスターは特典がないと外に出せなかったり、コアまでの道を防げなかったりするダンジョンのルールが人類に都合が良すぎるから、声はどちらかと言うと人類よりの存在だと思っている。



「声の存在を探るには目的から考えるのが手っ取り早い。人類を使って実験をしているのか。人類で遊んでいるだけなのか。人類を救済しようとしているのか。なんにせよもし人類側とダンジョンマスター側の同一人物……この場合人物というのはおかしいか。同一の存在だった場合は相当な愉快犯だ。ただ私は天の声を発した存在は2種類いると思っている」


「……というと?」



どちらも声が認識できないのだから、確かに違う存在でも気づけないけど、頭の中に直接声を響かせて能力を与えてくる存在が2種類いるとはあんまり思いたくない。



「まずダンジョン側の声が流れ、人類側に声が流れ、またダンジョン側の声が流れた。それぞれの第一声が"抽選により、ダンジョンマスターに選ばれました"、"人類の皆様にお知らせです"、"ダンジョンマスターの皆様にお知らせです"、だ。ダンジョン側は最初に事実を述べていたのに次に声を発した時はまるで人類側の声を真似したかのような内容に変わっていた」


「同一の存在なら真似じゃなくてそういう癖なんじゃいですか。最初の時は人類でもダンジョンマスターでもない中間の存在に声をかけるんだから、そのテンプレ文が使えなかったとか」


「もちろんその可能性もある。ただもし始まりの言葉を"なになにの皆様にお知らせです"、で統一させるような癖がある存在なら、終わりも似たような感じになっているべきだとは思わないか。人類側は"己を鍛え、ダンジョンの侵略から地球を守りましょう"という言葉で終わっていた。ならダンジョン側はそうだな……ダンジョンを育て、人類の侵攻から己を守りましょう、みたいにな」



言われてみればそう思えてきた。


俺の聞いている声は終始業務的で、ポイントの説明なんて一切せず、伝えたい内容を言い終わったらすぐに声は途切れた。


人類側には一言、ステータスと唱えることで能力の設定が可能です、簡単な内容の説明があったんだから、ダンジョン側にもAIの指示通りにチュートリアルを開始してください、みたいな言葉があってもよかった筈だ。じゃないと戦わせようとしているにしては伝えられる内容が不公正すぎる。


こちらにはAIのサポートがあったから、人類側は代わりに手厚い言葉をかけた、とも取れなくはない。けどそれよりもそれぞれ声の存在が別だった、という方がしっくりくる。むしろなんで今までその可能性を思いつかなかったんだろうと思うほどに。



「納得はしました。そうだとして考えられる声たちの目的はなんでしょうね。戦わせてどちらが勝つか勝負しあっているとか?」


「さぁな。それが1番今の所それっぽい理由だが、まだ情報が少なくて判断はできない。結局は何か起こるまで待ちの状況だ。来年の元日にまた何かあるんじゃないかと予想しているよ」


「あぁ。それは俺もそう思います。次の元日にはいったい何が起こるんでしょうね」



次は人類側に何かしらの特典が与えられたりして。



「俺が気になってることはもうこれくらいでいいでしょう。次はあなたの番です。何が1番知りたいんですか?」


「ダンジョンに関わることは全て知りたいのだが、1番か……」



今までにないくらいに悩んでいる。


そんなに1つに絞るのが難しいのか。

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