44話 交渉される
俺自身も風魔法を使って無事にスケルトンを倒した。ただ、俺はダンジョンマスターだったからか〇〇使い系の称号は手に入らなかった。
そもそも俺が初めてモンスター倒したのって自分のダンジョンのオークだからな。手に入るならその時手に入っているか。
所沢ダンジョンの攻略はめちゃくちゃ順調に進み、お昼になる頃には2階層へ続く階段を見つけられた。
前に攻略本を読んでいて、なんとなく序盤の道順が頭に入っていたからな。あと一応3階層までに出てくるモンスターとその弱点も覚えてる。
本来なら2階層の階段見つけたら帰ろうという話だったのだが、流石に早すぎるので、もう少し1階層でスケルトン飼っていくことにした。
「お、みっけ」
「じゃあ頼む」
「はーい」
自然とスケルトンを見つけたら俺と遊太で足止め。光介がトドメを刺すという流れになっていた。複数体来た時だけ遊太もトドメを指す方に回った。
また、攻撃していればトドメ刺さない人間にも経験値がちゃんと分散して入るようだ。一応ここら辺の知識も講習で習ってはいたけどね。やっぱり実際にやってみるまでは感覚がわからないし。
なお、俺はダンジョンマスターだからモンスターを倒したところでレベルは上がらなかった。ちょっと虚しい。
しばらくスケルトンを飼って、3人全員がお腹空いたタイミングでダンジョンの探索は終わりにした。
武器持ちスケルトンは長剣持ち1体しか見つけられていない。あとの獲得アイテムは倒したスケルトンの魔核14個だ。あんまり遭遇できなかったけど、1階層ならこんなもんな気もする。
魔核は1つ2000円。特研の魔核から電気を作るやつが発表された後かなり値上がりしての値段だ。
長剣は瑛士が居たら瑛士に渡してただろうけど、今いないから魔核と一緒に売ることにした。ごく普通の初心者用の長剣で、買い取り金額は1万円だった。こっちは思ってたより安い。
合計3万8000円。
俺が武器のレンタル代をまとめて出していたので、利益も俺が一旦全部預かっている。
武器のレンタルでナイフとメリケンサックはそれぞれ3000円、クロスボウは6000円ほどかかっていて、矢の購入代金に3000円使ったので、今日の収益は2万3000円。
3人で割ると7600ちょっとだ。
探索を2時間ほどしてこれは中々の稼ぎじゃないだろうか。まぁここから交通費とかも引かれるけどさ。
「端数渡すの面倒だから7500円ずつでいい?」
「俺だけ武器費用高いし配分少なくしていいよ」
「パーティ攻略で使った武器だから1人だけ下げるのは違うだろ。利益マイナスだったら貰ってたかもしれないけどさ。あと遊太のクロスボウめっちゃ役にたったからな」
「ああ。俺も同意見だ」
遊太は申し訳なさそうにしながらも、金額に同意した。ということで2人に7500円を渡す。
160円くらい多く俺が貰ってることになってるので、後で2人にジュースでも奢ろうと思う。
その後は駅近のファミレスでご飯を食べて解散した。
その日の夜。
瑛士から電話がかかってきた。
「もしもし?」
『もしもし!ダンジョンの研究者さんがあ……えっと、協力してほしいことがあるんだって!』
今こいつ俺の名前呼ぼうとして辞めた?
もしかして近くに誰かいるんだろうか。
「そのダンジョンの研究者さんが近くにいるのか?」
『ううん。いるのはその妹さん。今日俺がぶつかっちゃった人』
瑛士が1日付き合うことになったって言ってた人か。その人わざと瑛士にぶつかったとかあるかな?ダンジョンマスターに用があったみたいだし。
「ダンジョンの研究者の妹さんがダンジョンマスターに何を協力して欲しいんだ?」
『えっとね、ダンジョンの秘密とか天の声の目的とかを知りたいんだって』
それは俺も知りたい。
特に天の声の目的あたり。
そろそろ天の声について知れるかなと思ってAIに聞いてみても、毎回現時点ではお答えできませんって言われちゃうしな。
「その知りたいこと、ダンジョンマスターでもわかんないと思うよ」
『あー……えっと、俺もわかんない。あ、じゃなくて、興味はあるよね?俺はないけど』
察するに蒼斗もわかんないんだ、みたいなこと言おうとしたな。その後も名前呼ぼうとしては引っかかってる。
「あるかないかで言ったらあるけど、誰かと協力体制を作るつもりは今の所ないかな。あと名前呼ぶなら町田のまっちーでどーぞ」
『まっちー協力ヤダって!』
後ろで小さく女の子の声でまっちーって誰よって聞こえた。
『まっちーは町田のダンジョンマスターだよ』
『嘘ついてないよ。興味はあるって言ってたもん。でも嫌なんだって』
『俺はまっちーじゃないからわかんない』
『俺がまっちーを説得できるわけないじゃん』
『えー、無理なもんは無理だよ』
俺のことを無視して話してる声が聞こえる。
もうちょっと話をまとめて電話をかけてくればよかったのに。
『まっちーと直接話したいって言ってるけどいい?』
急に俺にくるじゃん。油断してた。
……瑛士通じてよりは本人と話して直接断った方が早いか。
「いいよ。代わって。あ、待って」
『なに?』
「電話の名前なんて表示されてる?」
『普通にまっちーの名前だけど』
「一回電話切って念の為名前変えてくんない?」
『わかった!』
通話を切って少し待つと、またすぐにかかってきた。
出てみると、瑛士ではなく女の声がした。
『初めまして。町田のダンジョンマスターさん?』
「初めまして。町田でいいですよ」
『じゃあ町田さん。あんた、お姉ちゃんの研究に興味はあるんでしょ?なんで協力するのが嫌なわけ?』
「何を研究していて何の協力をしてほしいかもわからない状態で知らない人の研究に協力しろって言われても無理に決まってるじゃないですか」
『そう……確かにそうね。なら改めて説明させていただくわ。私の姉はダンジョンについての研究をしているの。なぜ天の声はダンジョンを作らせて、それを人類に攻略させようとするのか。ダンジョンマスターが設定したダンジョンはどうやって誰が建設したのか。スキルはどうやって覚えさせて、行使されているのか。魔法を使う際に消費される魔力とら何か。とにかくダンジョンに関わること全てよ』
なるほど。手広くやっているらしい。
ダンジョンマスターが設定したダンジョンはどうやって誰が建設したのか、なんて面白い着眼点だ。俺としては建設ではなく空間が拡張される感覚に近い。最初の部屋とかまさにそうだったし。
けれど、
『研究のためにお姉ちゃんは全国各地のダンジョンに行ったわ。海外向けに開放されている国外のダンジョンにもね。そこでどんなモンスターが何匹出るかがわかっても、それ以上のことがわからない。人類の身ではどうしても辿り着けないのよ。例えば、瑛士は私の目の前で回復薬を出したけど、ダンジョンマスターがそんなことできるなんて知らなかった。たぶん、これはお姉ちゃんも知らないと思う。小嵜麻友はダンジョンのコアが壊されるとダンジョンマスターも死ぬと言っていたけど、それだって人類には知りようがないことだったわ』
気になったことがいくつかあるけどこのまま続きを聞こう。
『私はお姉ちゃんと違って天才じゃないから、ダンジョンの攻略は手伝えてもダンジョンについての考察は手伝えない。全てを知るには、お姉ちゃんを本当の意味で手伝えるのはダンジョンマスターだけなの。だからダンジョンマスターの協力者を探していたのよ』
「ダンジョンマスターなら誰でも良いってことですかね」
『正直に言うとそうね。でもこっちだって無理矢理協力させるつもりはないの。そんなの効率が悪いし。あくまでもダンジョンマスター側もダンジョンの秘密に興味を持っていることが大前提よ。瑛士の話によると興味はあるのよね?だったらお姉ちゃんから話を聞くくらいはしてくれないかしら』
ダンジョンについての全てを知りたいそうだから、ダンジョンマスターしか知り得ないことを教えてくれる協力者が欲しいってわけね。
あと妹さんがとても姉ことが好きなシスコンってことはなんとなくわかった。
協力か……いろいろとダンジョンについて気になっていることがあるのは事実だ。今の所、なんの突破口もない。
このままダンジョンのレベルを上げ続ければ情報が開示されるかもしれないけど、それもいつになるのかわからない。
「俺のダンジョンの特徴は?」
『なに、急に』
「知識量を知りたいだけです。姉の研究を間近で見てたならあなたもそこそこ詳しいですよね?簡潔に答えてみてください」
『町田のダンジョンはチュートリアルをコンセプトにした初心者向けのダンジョン。1から5階層までと10階層はモンスターが1匹ずつ、6から8階層には2種類のモンスターが30匹ずつ、9階層では1から5階層までに登場したモンスターがランダムに配置されている。初心者でも攻略しやすいのは事実だが、チュートリアルという仕組みはあくまでもダンジョンの攻略速度をコントロールするためのものにしかすぎない。ってお姉ちゃんは言っていたわね』
想像以上に詳しいな。攻略本でも読んだ?
でもあの本他のダンジョンは3階層まで、町田ダンジョンは7階層までの情報しか載ってなかったしな。
さっき全国各地のダンジョンに行ったって言ってたし自分の目で見た情報が今のだろうか。
「君のお姉ちゃん、もしかして本とか出してないですか?」
『出してるわよ。まぁ、あれはダンジョン研究者ってペンネームだったけど』
それ絶対椿原さんから教えてもらった『国内ダンジョンの現在を徹底解説』って本じゃん。
上下巻持ってるよ。
そっかあの本の作者か……ちょっと会ってみたい気持ちになってきた。いやでもな、会ったらダンジョンの情報教えるってことだよな?
それは嫌なんだよなぁ……
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