45話 条件

向こうの求めるダンジョンの情報はなんなんだろうか。


おそらくダンジョンマスターにしか知らない情報なんだろうけど、一般的に知られてないものってなるとすぐに出てこない。だいたい小嵜が動画やテレビで話してるからな。


ダンジョンを作る際のルールとかは話していないか。あいつダンジョンまともに作ってないから話してないというより話せないんだろうけど。

あとは、AIの存在もサポートキャラがいる的な感じに言っていても、その詳細は確か言っていなかったと思う。こっちもまともに使ってないからだろう。


逆に俺が知られるとまずい情報はなんだろう。


とりあえず俺の個人情報は知られたくなくて、その次に人類が到達していない階層のダンジョンの攻略情報は知られたく無い。


AIのことはあんまり話したくはないが、ダンジョンマスターが次々と表に出てきてる今の状況なら、いずれは誰かが言いそう。


ショップで買えるアイテムが地上で出せてそのまま使えることは瑛士が妹さんの目の前で使ったことから当然バレてる。


……よくよく考えると攻略情報以外は出し渋る意味がない気がしてきたな。


となると協力関係を築いて俺が知らなさそうな情報を教えてもらった方が得策だろうか。

ダンジョンについても、あの天の声についてもまだまだわからないことが多いのは事実だし、どうやってあそこまで詳しくダンジョンの攻略情報を知れたのかも気になる。



『ちょっと、ずっと黙り込んでるけどどうしたのよ?そっちが本出してるかって聞いてきたんじゃない。……あたしの声聞こえてる?』


「あー、すみません。ちょっと考えてました」


『で、どうなの?協力してくれる?』


「はい、ぜひ」


『ほんと!?』


「ただ、条件があります」


『条件……?あんまり厳しいのは無理よ。お金なら多少出せなくもないけど』



いや、お金はいらないって。


正確には欲しいけど後々めんどうなことになるだろうからいらない。



「いえ、まず会う場所は必ず町田ダンジョンでお願いします。モンスターが出ない場所を用意するので」


『それくらいなら大丈夫よ。ただし、攻撃の意思を感じたらこちらもそれなりの対処をさせてもらうけどね』


「それでかまいません。次に、互いの素性を探るのは無しにしましょう。俺は俺のことを知られたくないし、そちらが誰かも聞きませんので」


『わかったわ。でも私瑛士に名前名乗っちゃったんだけど』


「俺と瑛士は友人同士ってだけで同じ人物じゃないですよ。別にそちらが瑛士と仲良くしても問題ないし、瑛士が無条件でそちらに協力するって言うならそれでもいいです。勝手にやってください。ただ、瑛士から俺の情報聞き出そうとしないでくださいね」



瑛士は俺が隠して欲しいって言ったことはなるべく隠そうとしてくれるけど、うっかり情報を漏らしかねないからな。


そもそも聞かれないことがベストだ。



『なるほどね。他に条件はある?』


「最後に条件とは違いますが、俺のダンジョンの攻略情報は絶対に出せないので先にご了承ください」


『ダンジョンはダンジョンマスターの生命線だものね。こっちは情報を聞き出そうとしないと約束する。ただ、知ってしまうのは許してよね』



知ってしまう……?


少し引っかかる言い方だ。まるで聞かなくてもダンジョンの攻略情報はわかるみたいな。


そこらへんも会った時に詳しく聞こうか。



「そこまで厳しく制限するなら場所を変えなくてはいけないですからね。ダンジョンに来て何かを知る分には別にいいでしょう。俺の条件はこれくらいですが、そちらからはなにかありますか?」


『いいえ。特にないわ。まぁ、会って思っていたのと違ったらそこで関係は終わりかも知れないけど』



それはこちらも同じだな。妹さんは話の通じそうな雰囲気はあるが、姉である研究者さんの方は実際どうなのか会ってみなきゃわからない。


ダンジョンのことを知るためならどんな手段でも取ってやる、みたいな人なら協力関係はお断りしたいところだ。


その後は実際に会う日を決めることになったのだが、本人に予定を聞かないと決められないということで一旦保留となった。


後日SNSのDMに連絡をするようお願いした。


さて。電話が終わったところで自分のやってた作業に戻ろうか。


今日ダンジョンの探索をして気づいたことがある。


それは初心者はなかなかスキルを使わないということだ。


俺は風魔法のスキルを多用していたけど、友人の2人はスキルを使う素振りを見せなかった。


初めての戦闘だからというのもあるだろうし、回避スキル持っていても回避する場面がなかったというのもある。体術やナイフ術みたいな◯◯術系のスキルはその戦闘方法の動きに多少の補正がかかるってだけで必殺技みたいなものじゃないしな。


けど、探索中見かけた他の探索者もスキルは使わず武器だけで戦闘している様子だった。


講習では取りやすいスキルの存在を教えてもらっていても、実際の扱い方は習わないのだから、そうなるのも無理はないのかもしれない。


魔法を使う探索者が思ってたより少ないのも同じ理由だろう。


魔法系のスキルは取得した時に使い方が頭に入ってくると言っても、ぶっつけ本番で戦闘を行うのは怖いだろうからな。講習で習わなかったら避けたいのもわかる。


逆にいえば、練習するところがあるならもっと初心者でもスキルを使いやすくなるんじゃないだろうか。


ということで、1階層に練習場を作ってみようと思う。


と言っても、今の1本道の入り口側の左にわき道作ってその先に何もない広い空間を作るだけだ。


100m×60mで6万ポイント。さらにそこから、高さあった方がいいと思ったので、さらに6万ポイント払って天井高を倍にした。


あとは最初の部屋にいつもの看板を設置すれば終わりだ。



【お知らせ 1階層に練習場がオープンしました。モンスターは出てこないので安心してスキルなどの練習を行ってください】



最初の部屋の看板がごちゃごちゃしてきたから、前に設置した配信コメントのやつを消して、アンケートも今は配信や動画で行えるので消す。


よし、これで良いだろう。


あとで動画取って練習場の宣伝をしよう。


探索者がここでスキルの練習を行うようになれば、滞在時間が伸びてポイントが増えるという仕組みだ。


それに、スキルの練習をしたいのは何も初心者だけじゃない。レベルが上がって新しくスキルを取った時にとりあえず練習したいのはどの探索者も同じだ。


普段町田ダンジョンに来ない探索者も練習するために来場するようになるかもしれない。


なかなか需要があるのを作れたような気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る