42話 所沢ダンジョン
東畳さんと話してから1週間ほどで特研はダンジョン内で使える懐中電灯を作ったと発表した。
今までの"機械は使えない"というダンジョンの制限を破ったことになる。動力源は電池ではなく魔核だそうで、魔核が使用されているものなら機械でもダンジョン内で使えるのではないかと予想されている。
しばらくしたら本当に高性能カメラを開発しそうだ。
それはさておき、今日は埼玉県にある所沢ダンジョンに来ている。
シンプルに友人たちと探索者としてダンジョンを探索するためだ。
町田は常時入場制限がかけられているようなものなので、首都圏に住む探索者は大体こっちのダンジョンに行く。1番人気が梅田ダンジョンだとしたら、2番目に人気なのが所沢ダンジョンなんじゃないだろうか。渋谷ダンジョンが残ってたらそっちになってただろうけど。
さて、今回は最寄りの駅に現地集合だ。
時刻は10時。遊太と光介、それに俺らもまともにダンジョンを攻略するのは初めてなので、今日は1階層を探索したら終わりの予定である。
最寄り駅に着くと、すでに遊太と光介がいた。
「早いな」
「旅行の時は楽しみすぎて寝れなくて遅刻しかけたから、今回頑張って早く寝たら早く起きちゃった」
「こいつ1時間前には到着してたらしい」
「まじかよ」
「そういうお前も俺がついた10分後くらいに来たじゃん」
「電車の都合だ」
ど田舎じゃあるまいし、電車都合でこんな早く来ることないだろ。
2人がそんなにダンジョン探索にガチだとは知らなかったな。
そういえば瑛士もこういう時は早く来るタイプだ。まだ来てないのは珍しい。
「瑛士からなんか連絡きてない?」
「なんも来てないよ。寝坊してんじゃない?」
「俺にもない。電話するか?」
「じゃあよろしく」
光介が電話をかけると、瑛士はすぐに出た。
なんだか困惑してる声がする。
少し待つと、電話が終わった。
「なんだった?」
「寝坊して走って駅向かってたら人とぶつかって怪我させたから、お詫びに1日遊ぶことになったってさ。だから今日は来れないらしい」
「なにその状況。漫画かよ」
「お詫びに遊ぶってなに?」
「知らん。聞いても本人があんまりわかってなさそうだった」
「まぁ瑛士だしな。ノリでそうなったんだろ」
「来れないならさっさと行こーぜ」
なんでそうなったのかは後で本人から改めて聞こう。
ということで、3人でまず向かったのはダンジョンではなく、ダンジョンから歩いて30秒の位置にある特殊素材取扱ライセンスを持ってる、つむぎ堂というお店だ。
ここは素材の買取はもちろん、武器や防具のレンタルを行っている店である。
ダンジョンの探索において、まず必要なのは武器だ。最初にモンスターを倒した時に使っていた武器でもらえる称号が左右するから超重要である。
けれども最初から武器を持ってる人は当然居ないし、武器を買えるお金を持ってる人も少ない。
だから大体の探索者はレンタルという手段を取る。
もちろんレンタルするのにもお金がかかるが、購入するよりずっと安い。
レンタル代は店によってかなり差があり、安くてちゃんとした武器を貸してくれるところもあれば、高いレンタル料支払ったのにまともな武器を貸してくれないこともある。共通するのはもし武器を紛失したり故意に壊したと発覚したら武器を購入する以上のお金を請求させることだろうか。
中には壊れてないのに壊れたといって探索者からお金を毟り取る悪質な店もあるようだ。
つむぎ堂の評判は悪くなかったので、今回はここから借りることにした。
「予約してた若島です」
「若島さんですね!希望している武器はお申し込み時とお変わりないでしょうか」
「変わらないんですけど1人来れなくなったので、長剣だけキャンセルするのは可能ですか?」
「はい。問題ありません。それでは今回はナイフ、メリケンサック、クロスボウのレンタルですね。HPにも記載していた通り、矢は貸し出していないので、購入する必要があります。よろしいでしょうか?」
「大丈夫です」
「それではこちらにご記入ください」
申込書と、人数分の臨時武器使用許可証の用紙を渡された。
本来なら臨時武器使用許可証は所持申請をしていない武器緊急時に使った後に提出するための書類である。戦闘時に何があるかわからないからな。自分の武器が壊れてとか、武器を拾って思わずとか臨時で武器を使う機会なんていくらでもある。
でも少し使ったくらいでいちいち書類の提出する人なんていない。
今はもっぱらレンタル用の書類と化していた。特に違法とは言われていないので、国もこの現状は黙認しているっぽい。
書類を書いて、レンタル料を支払って、遊太が使う矢を30本ほど購入してダンジョンに向かった。
お金は後でまとめて貰う予定だ。
ダンジョンには他の探索者に紛れて入った。確実に"ダンジョンマスターからの侵攻を確認しました"という通知が行くからだ。
今回は顔を隠していないので、最悪その通知で俺がダンジョンマスターだとバレる。まだ正体は隠しておきたい。
町田ダンジョンと違って所沢ダンジョンは人の出入りが激しい。たぶん誤魔化せただろうけど、どうだろうか。
今考えても仕方がないので、バレてないと信じて1階層に続く階段を降りた。
「結構狭いな」
「槍持ちは不利そうだね」
「1階層はどこもこんな感じだと思うよ」
初期ポイント的にそうなる。
所沢ダンジョンの1階層は環境変化をしていないようで、デフォルトのゴツゴツした洞窟みたいな道が続いていた。道幅は2mほどだろうか。俺のところは1mくらいしか道幅がない場所もあるので、まだ優しい方である。
出てくるモンスターはファンタジーでは定番のスケルトン。たまに武器を持っている奴がいて、倒すとそいつが持っていた武器がドロップする。
この武器の入手のしやすさも所沢ダンジョンに人が集まる理由だろう。
「お、早速いた」
「この位置から狙えるか?」
「やってみるわ」
スケルトンの動きはそこまで早くない。
遊太が放った矢は1発目は外れ、2発目は眼孔を貫き、3発目は額を貫いて倒した。矢は3本とも壊れてなかったので回収して再利用だ。
遊太はクロスボウのコントロール力が良くて羨ましい。
「クロスボウ使いの称号手に入れたわ。あとレベルも上がった」
「習った奴か。俺だとメリケンサック使いになるのか?」
「なにか装備してても拳を使って倒した場合は拳術使いになるらしいよ」
「なるほど」
「次は光介の番だな」
「ああ」
一応マッピングしながらダンジョンを進む。
なんとなく隠し部屋を探してみたが、それらしいところは見つけられない。自分で設定した場所ならともかく、他のダンジョンだとあっても流石にわからないか。
途中何人かの探索者とすれ違いながらも、2体目のスケルトンを見つけた。
まず遊太がスケルトンの足を狙ってその場から動けなくさせ、その後光介がメリケンサックをつけた拳でスケルトンの頭蓋骨を砕いて倒した。
……俺なにもしてなくない?
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