33話 手遅れ
「今の発言は忘れてくれないか。機密事項なんだ」
今まで積極的に発言しなかった男性の方が話し出した。
聴取役交代か。
「どうでしょう。都合の良いことだけを忘れられるほど俺は器用じゃありません」
「こちらの事情を暴いて、君は一体何がしたいんだ」
「そっちが勝手にボロを出したのに、何言ってるんですか」
「そうだ。こちら側のミスだ。宮吉が未熟だった。宮吉の今までの発言で怒らせたのなら謝罪しよう」
そういうことじゃないんだよな。
別に謝罪は求めていない。
「俺はただ、普通に暮したいだけなんですよ。でも、あんたらが些細な理由で瑛士を疑って、俺らに接触してきて、みんなで話し合ったらまた家に来られて……逆に聞きたいんですけど、こっちは知らない、心当たりないって言ってるのにこれ以上どうしろって言うんですか。嘘でもいいから瑛士がダンジョンマスターを匂わすような発言をしていたと証言すれば満足するんですか。そんなことしたら瑛士がどうなるのかわからないのに、友人が犠牲になるような発言をしろって?ふざけてる」
「そんなつもりはなかった」
「俺の望みはひとつだけ。これ以上あんたらのくだらない政治争いに巻き込まないでください。そうしたらさっき聞いた機密事項とやらも言いふらすつもりはありません」
「……わかった」
「いいんですか」
「今の彼に協力をお願いするのは難しいだろう」
「そうですが」
「今回は諦めろ」
「……わかりました」
その時、俺のスマホが鳴った。電話だ。
宛名を確認すると瑛士からだった。
あと少しで2人を追い返せそうだったのに。なんで今……
「出ないんですか?」
こう言われたら出ない方が変か。
やましいことがあると思われても困る。
失礼しますと一言断って、瑛士からの電話に出る。
『どうしよう!』
「何かあったのか?」
電話の向こうの瑛士は焦っている様子だった。
『家の前に黒服の2人組が居たから反射的に逃げてきちゃった!たぶん俺のことに気づいてないけど、あれ使うべき!?』
「落ち着け、今どこから電話をかけてるんだ?」
『駅のトイレ!』
「じゃあすぐに見つかる場所にいるわけじゃないな。ちょっと黙って待ってて」
『わかった!』
電話を繋げたまま、改めて目の前の2人と向き合った。
「瑛士の家に黒服の2人組が来たようです。あんたたちの仲間ですか」
「いいえ、我々は証拠がない限りは本人と接触しないよう言われています」
「じゃあ瑛士のところの2人組はダンジョンを完全に消滅させたい派閥ってことですかね」
「おそらくそうでしょう。どうします?彼を保護してあげましょうか?」
上から目線で意気揚々と聞いてきている。
さては俺がさっき保護の話を断ったの根に持ってるな。器が小さすぎる。こいつ聴取役むいてないどころか、選ばれたの失敗だっただろ。
この言い方をされなくても断ってるけどさ。
だってもうダンジョン消滅派が動いちゃったから。
そんな中ダンジョン利用派が保護するなんてことになったら、保護された人間になにかあるって思われても仕方がない。
完璧に守れるならともかく、こいつらにら守れなかった前例があるからな。任せられるわけがない。
「こっちでなんとかするので保護の話は大丈夫です。今日は帰ってください」
そう言っても動こうとしない。この電話は絶好の弱みポイントだもんな。でも利用させてたまるか。
「俺はあんたらと無策で対話するほど馬鹿じゃないですよ。あんたらに何かお願いすることは一切ないから帰ってくれません?」
会話を録音していたと遠回しに伝えてみた。
ちゃんと伝わったようで、ようやく2人は帰ってくれた。
「ごめん待たせた。人が来る様子はあるか?」
『たぶん大丈夫だと思う』
「今日は家に帰らない方がいい。行く宛ある?」
『んー、どうだろう。友達当たれば泊まらせてくれる人いると思うけど、蒼斗んとこじゃダメ?』
「俺今町田住みだけど来れるか?」
『大丈夫!』
ということで今日は瑛士が泊まりにくることになった。
1時間ほど待つともうすぐ着くと連絡があったので、駅まで迎えにいく。
「無事でなにより」
「蒼斗は大丈夫だった?例の人たちまた来たんだよね?」
「追い返したから問題ない。じゃ、さっさと行くぞ」
2人で街を歩く。
いつもだったらこっちが何も言わなくても、瑛士がずっと話し続けてるのだが、今日は無言だ。
こいつにも緊張とかそういう感情あったんだな。
「着いたよ」
「ここって……町田ダンジョン?」
「家じゃ会話聞かれるかもしれないからな。内緒の話をするならちょうどいいだろ」
「確かに!」
足を踏み入れた瞬間、AIから警告が来る。隣にダンジョンマスターがいるからな。
警告は無視して瑛士と俺の姿を隠遁者で隠し、1階層にさっき造ったばかりの隠し部屋に入る。
椅子と机だけある小さな部屋だ。
部屋に入ったら隠遁者の効果を切る。
「能力使いこなしててすごい!」
同じダンジョンマスターなんだから、瑛士もできる筈なんだけど。
「そんな事はどうでもいいからさ、状況整理しようか」
なにせ今の俺たちの……というか瑛士の状況はかなり終わってる。
「瑛士は今自分の状況どれくらい把握してる?」
「俺が捕まるかもしれない状況のこと?」
「それで大体合ってる。捕まったら一生外出られなくなるかもしれないし、殺されるかもしれない。瑛士のダンジョンは実質人類と敵対してる状態だから、名乗って回避することができない」
「今日の話し合いで言ってたことだね」
「それがさっき、状況が変わった。瑛士の家に居たのはダンジョン消滅派だったみたいでさ。一度動き出したのなら、ダンジョンマスターを捕縛、あるいは抹殺するまでは止まれない。動いておいて、勘違いでしたなんて終われるはずがないから」
「つまり?」
「ダンジョンマスターだと名乗り出る必要がある」
「あれ、でも俺は名乗って回避することができないって」
俺の言葉に瑛士が疑問を投げかけた。
そもそも梅田のダンジョンは人類と敵対してるから小嵜麻夢みたいな動きができないと言ったのは俺だしな。
それは今でも変わらない。梅田のダンジョンマスターはテレビに出て人類の味方を作るやり方は絶対にできない。
でも味方を作らない前提で動くなら話は別だ。
「敵対したくないと訴えてる小嵜でさえアンチがいるんだ。瑛士の場合だと批判がすごい殺到するだろう。味方はほとんど出来ないと思ってる。でも、現時点で国はダンジョンマスターの存在を認めてないから、密かに動きたい特殊建造物対策局は瑛士のことを諦める可能性がある」
存在を認めてないからこそ、向こうはダンジョンマスターを公に捕まえるのは難しい。
ダンジョンマスターを認めたとして、いったいなんの罪で捕まえるのか。ダンジョン内で人が死んでいたとしても、ダンジョンマスターは直接手を下していない。
罪に問えるとしたら、不法に建造物を作ったことくらいなんじゃないだろうか。
あんまり法律に詳しくないから断言できないけれど。
だから、人々に恨まれて生きていく覚悟があるなら、ダンジョンマスターの存在自体が罪だと言われる前に名乗ってしまった方が手っ取り早い。
「なるほど。じゃあ今すぐ名乗り出よう!」
「まぁ、待て。ダンジョンマスター1人が表に出ればいいんだよ。別に瑛士じゃなくてもいい」
「俺以外?」
「俺もダンジョンマスターだから、俺が表に出たっていいんだ」
「なんで?今回のことは俺が原因じゃん」
確かに瑛士が引き起こしたことではある。
でも俺も無関係じゃない。
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