32話 再訪問

みんなで話し合った日の夜。


またインターホンが鳴った。

モニターを見ると、見覚えのある2人がいる。


俺たちは特殊建造物対策局の人が来て、数日経っても進展がなかったからまだ時間があると思っていた。

だからさっきの話し合いで方向性すら決まらなかったし、また会う日を決めて解散した。


でも違った。


向こうは俺たちが集まるのを待っていたらしい。


無視はできないから仕方なくインターホンに出る。



「なんの用ですか」


『本人と会っていたようでしたので、何か思い出したことがあったのではないかと思い、また来ました。とりあえず家の中、入れていただいても?』


「……わかりました」



その可能性は考えていたけど、本当に俺たちのこと監視してたのか。


悠長にここに来てるということから、カラオケ内でした会話は聞かれてないようだな。


となると、決定的な証拠はまだ握られていない。

こっちがボロを出すのを待っているんだろう。


もう手遅れかもしれないがあいつらのところにも政府の人が来るだろうから、"また来た"と"無視しとけ"というメッセージを送っておく。


念の為、空間転移の水晶を買える画面にして……あとはスマホの録音アプリも開いておくか。


それから宮吉と筒口を家にあげた。



「今日は4人で集まってどんな話をされてたんですか?」


「最近の近況とかですかね。他言無用と言われてたのでダンジョンマスターについては何も言っていませんよ」


「最近の近況を話すためにわざわざカラオケに集まって、歌いもせず4時間もいたんですか?」



……これはカマかけだろうか。それとも監視カメラかなんかを見て言ってるのだろうか。


否定も肯定もしにくいな。



「ご存知かと思いますが、最近俺たち全員探索者になったんですよ。だから話したいことも多くて。そうだ、紫之宮さんって方ご存知ですか?」


「いえ、知りません」



へぇ、知らないんだ。


瑛士と連絡先交換した教官を知らないは無理があるんじゃないか。



「俺らがライセンスを取る合宿をしに行った時、担当してくれた教官の名前ですよ。友人の俺らを放っておいて、瑛士は親密そうに2人でこそこそ話してました。俺らが知らないことをもしかしたら話してるかもしれません。紫之宮さんからも話を聞いてみては?」



女の方が一瞬男の方を見る。



「……検討しておきます」



なるほど。


やっぱり俺の予想は間違ってなかった。


ダンジョンマスターと疑ってる人に仲の良い女性がいたと言われて、"検討します"はないだろう。


普通、合宿時の様子はどうだったかもっと聞いてくる筈だ。今は少しでも情報が欲しいんだから。


でも、それを検討しますで終わらせるってことは、紫之宮さんからは何もでてこないって知ってるんじゃないだろうか。けれども紫之宮さんのことは最初知らないって言っていた。


隠したい事があるって思うよな。


やっぱり瑛士が疑われてるのは紫之宮さんが何か言ったからだ。


そして、特殊部隊を辞めた人がたまたまダンジョンマスターを見つけたというより、特殊部隊に今もなお所属しておりそういう任務を受けてる人がようやくダンジョンマスターっぽい人を見つけたっていう方がしっくりくる。


瑛士から紫之宮さんとした会話を聞いても、それらしい内容のものはなかった。そもそも紫之宮さんは進んで受講者と話すタイプじゃない。


もし紫之宮さんがダンジョンマスターを探しているとしたら、もっと他の場所で判断してる筈……



「あの、紫之宮さんについて以外に何か思い出したことはありませんか?」


「改めて考えてるんでちょっと待ってください」



俺と瑛士の違いはなんだろうか。


ステータスをこっそり見れるアイテムがあったとか?いや、だとしたら証拠集めに奔走していない。


光介も言ってたが、判断材料はもっと曖昧なもので、それでいて俺と瑛士に違いが出るもの……テストで選んだ武器?それで疑われるなら長剣選んでる人全員疑われるか。


あとは……座学の解答とか?でも瑛士受かってたしな。いや、今思うとなんであいつ受かったんだろう。テストで赤点ギリギリの常習犯だったのに。

◯×問題だから運がよかったんだろうか。


座学のテストで俺でもなんか引っかかることあったんだよな。日本で確認されたダンジョンは16じゃなくて14になってるところとか、モンスターが再出現するまでの時間はダンジョンに満ちている魔力量によって左右されている、みたいな事実と異なる内容とかさ。


俺は気をつけて教わった方で解答した。でも瑛士はどうだろうか。



「ひとつだけ聞きたいんですけど、いいですか?」


「なんでしょうか」


「瑛士のテストの解答ってそんなにもダンジョンマスターみたいだったんですか?」


「……なんのことでしょう」



返答が一瞬遅れた。



「さっき俺に歌いもせず4時間もいたんですか?と聞きましたよね。そうです。認めます。俺たちはあなた方に言われた内容を直接本人に確認していました。でも、本人はまるで心当たりのない様子でした。だからどこで疑われたんだろうって話してたんですよ」



話し合いの時は原因がわからないまま終わってしまった。

でも、今の反応でわかった。


瑛士が疑われた原因は座学の解答だったか。


びっくりするくらい疑う原因が些細なことすぎる。こんなの予想できるかよ。



「瑛士がもし座学テストの解答でダンジョンマスターですって書いていたなら疑うのもわかるんですけど……◯×の解答形式でよく瑛士を疑えましたね」


「先ほどからなんの話をされてるんですか?」


「友人がくだらない理由で政治のくだらないことに巻き込まれて、俺たちが素直に協力すると思いますか?」


「くだらないという発言は撤回してください。我々は国民のためを思って動いています」


「くだらないでしょう。些細な理由でただの一般人を追い回してるんだから。やる事がそこら辺のマスコミと変わらないですよ」


「その物言いは看過できません。マスコミと一緒にしないでください」



俺からしたら同じなんだよな。

権力がある分、マスコミより厄介だけど、やってることは変わらない。



「もし友人がダンジョンマスターだったら保護したいって言ってましたよね」


「はい」


「じゃあなんでダンジョンマスターを名乗ってる小嵜さんには接触しないんですか?」


「彼女はダンジョンマスターだと認められていませんので」


「前来た時は小嵜さんはダンジョンマスターで言ってることは正しいって言ってましたよね」


「似たような事は言ったかもしれません」


「彼女の存在は公に認めないのに、テストの解答がダンジョンマスターっぽい人は疑って証拠集めするなんてどう考えてもおかしいですよ」


「それは……」


「俺からしたら、国民には内緒でダンジョンマスターを利用したいから、表に出てない人からダンジョンマスターを探してるようにしか見えないです」


「前も言いましたが、ダンジョンマスターの存在を伏せているのは国民に混乱を招きかねないからです」


「本当に貴女がそう思ってるなら、脳内は相当お花畑ですね。特殊建造物対策局の方とは思えないです」


「なんですって」


「防衛省の特殊建造物対策局の方とは思えないくらい脳内お花畑ですねと言いましたがなにか」


「ふざけないでください!」


「宮吉」


「筒口さん、でも」


「落ち着け」


「……わかりました」



そのまま怒ってくれていた方が楽だったんだけどな。


そう上手くは行かないか。



「前回お話しした際、ダンジョンマスターではなかったら保護しないと言ったことに怒ってるんですか」


「否定はしません」


「わかりました。ではお望み通り品谷瑛士さんがダンジョンマスターじゃなかったとしても保護しましょう」



それはそれで困る。


保護という名目で何されるかわからない。

今までのやり取りで信用できるわけないよな。



「お断りします」


「何故ですか」


「保護してもらったところで馬渕基久まぶちもとひさのように国に殺されちゃうかもしれないじゃないですか」


「どうしてそれを……」


「宮吉!」


「あ」


「その反応、やっぱりそうなんですね。カマかけた甲斐がありました」



今までもわかりやすい反応してたし、あんまり宮吉さんの方は優秀じゃないみたいだ。


聴取役に向いてない。

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