31話 話し合う
高校生時代、何十回も通ったカラオケに来た。
「ひさしぶり、でもないか」
「合宿からまだそんな時間経ってないもんな」
「とりあえず入ろう」
「ねぇ、なんかみんな暗くない?」
「話は後でな」
お前のことでみんな集まってるのに本人だけが何も知らないという。防衛省の人、本人のところには行かなかったらしい。
受付を済ませ、すんなりと部屋に通される。
いつも入れてた曲を勝手に10曲くらい入れた。
「じゃ、瑛士はわかんないだろうから説明するな」
「歌わないの!?」
「歌わねーよ」
「お前、ほんと……」
俺らの雰囲気で察しろと言うのも無理な話か。
「一応先に確認なんだけど、お前らの元にもきたよな?防衛省の特殊建造物対策局の人。俺は宮吉と筒口って人だった」
「ああ。平永と鵜居と名乗っていた」
「来たよー。俺のところは青瀬さんと国木さんって人」
「そうだったの!?」
俺がメッセージ送った後の返信速度的に、たぶんほぼ同じタイミングで来たんだろうなって思ってたけど、やっぱりそうっぽい。
情報共有されないためか?
「そうだよ。だから今日集まったんだよ」
「話し合いをしたくてな」
「じゃ、俺が代表で聞いた内容を話していくわ。2人は相違があったら言ってくれ」
「わかった」
そして俺は瑛士がダンジョンマスターかどうか聞かれたこと、それっぽい発言はなかったか確認されたこと、もしダンジョンマスターだったら保護したいと言っていたことを話した。
特に何も言われなかったから、2人も似たようなことを言われたんだろう。
「それって俺が大人しく保護されればいいんじゃないの?」
「瑛士がそれでいいならいいけど……」
「一度保護されたらもう普通に生きていけないだろう。もちろん探索者としてダンジョンに潜ることも難しくなる」
「まだ話してない部分もあるから最後まで聞いてほしい。あいつらは保護したい理由をダンジョンを消滅させたい派閥とダンジョンを利用したい派閥がいて、ダンジョン消滅派にダンジョンマスターが殺される前に保護したいって言ったんだ。保護してからは利用する気満々だ」
「それはなんか嫌だ!」
「まぁ、だろうな」
「今思うと、全員ずいぶん丁寧に説明されてたんだね」
「あれは脅しも入ってるだろう。友達が殺されたくなければ情報を言えってな」
光介の言うとおり、理由を聞いた俺はともかく、2人にも話してるならほぼ確定で脅しだろうな。
「あー、なるほど」
「なんで俺のところには来なかったんだろーね」
「無理矢理捕まえたらダンジョンがどうなるかわからないからとか?」
「確実な証拠がないと人を動かせないからじゃないか」
「あくまでも保護っていう体裁が大切なんだと思うよ」
そして保護する代わりに情報よこせとかダンジョンをこういう風にしろって言ってくるのが目に見えてる。
にしても証拠か……
「瑛士は誰かにダンジョンマスターのこと言ったのか?主に紫之宮さんあたりに」
「本当に何も言ってないよ!蒼斗の時みたいにうっかり言わないよう気をつけてるもん」
心当たりはないようで、食い気味に否定された。
「大阪旅行の話はした?」
「してない!」
「じゃあなんの話してたか覚えてる?」
「えっとー、趣味の話とか好きな動物の話とか?」
あの紫之宮さんと趣味の話……?
絶対バレた原因ここだと思ったけど違うのかな。
その後も細かく会話内容を聞いたが、本当にダンジョンマスターに結びつく会話はしていなかった。
「ねぇ、原因探るのってそんな重要?バレちゃったもんはしょうがなくない?」
「原因が何かわかんないと対策しようがなくて、俺も同じ理由で疑われる可能性あるからな」
「なるほど!」
「政府の人は俺らに心当たりを聞いてきた。と言うことは確定的な発言や証拠はなく、もっと曖昧なものなんじゃないか?」
「タイミング的にライセンスを取る合宿で何かあったとみて間違いないと思うんだけどなぁ。瑛士だけ疑われたってことは絶対紫之宮さん絡みだと思ったのに」
「俺ら全員試験に合格したし、合宿は関係ないんじゃない?」
まぁ確かにあの合宿関係ない可能性も普通にあるか。
ここで時間使っても仕方がないしいったん原因探るのは諦めよう……
「わかった。じゃあ一回話をまとめよう。ダンジョンマスターだと疑われてるのは瑛士で、本当にダンジョンマスターだから困ってるわけだ。このまま放置してたら瑛士が捕まる可能性もあるし、なんなら最悪殺される可能性もある。保護されれば命は助かる確率は上がるけど、絶対じゃないし、普通には暮らせなくなる」
「めっちゃやばい状況じゃん……」
ようやく瑛士に俺らの空気感が伝わった。
あと、この空気だから言わないけど、瑛士が捕まれば、俺のことだってバレる可能性があるんだ。放置はできない。
「ようやくわかってくれたか」
「あれ、待って。でも普通にダンジョンマスターでテレビ出てる人いたよね?」
「ああ、小嵜麻夢さんのことだな」
「だから政府の人たちは秘密裏にダンジョンマスターを捕まえたいんだと思う」
「じゃあ俺もダンジョンマスターって世間に名乗ったら解決じゃない?」
「梅田のダンジョンマスターですって?お前自分のダンジョンで何人の人が死んでるか把握してないだろ」
小嵜麻夢はあくまでも人類に歩み寄りたいと願ってるからこそ世間に受け入れられてる。
瑛士のダンジョンは人気で、攻略者が多いから亡くなった人も多い。特にライセンスが発行される前の攻略は死傷者が多かったとセンセーショナルに報道されている。
梅田のダンジョンマスターだと名乗るってことは、いっぱい人殺しましたって宣言するようなものだ。
「そっか、ダメなんだ。じゃあどうしよう」
「ダンジョンマスターじゃないって証明するのは難しいもんねぇ」
「悪魔の証明と同じだな」
「そもそも何も知りませんって突っぱねたけどさぁ、誤魔化せてるか怪しいかも、俺」
「俺も」
「俺も似たようなものだ」
その後みんなでいっぱい解決方法を話し合った。数時間経つも、答えは出ず……店員から退出時間10分前の電話が来た。
「フリータイムなのにもう時間きちゃったか」
「休日だし仕方がないだろう」
「結局どうすればいいかまとまらなかったね」
3人寄れば文殊の知恵ならず……ダンジョンマスターじゃないって証明する方法本当に思いつかなかったな。かといって名乗るわけにも行かないし。
仕方がないから話し合いはまた今度することになった。
「あ、瑛士。出る前にちょっといい?」
「なに?」
「ダンジョンポイントどれくらいの貯まってる?」
「待って、今数える」
おそらく画面を出して、いち、じゅう、ひゃく、と声に出して数えている。
「わかった。俺よりもあるんだな。じゃあ最悪な状況になった時に使えるアイテムを教えておくよ」
「最悪な状況って?」
「それこそ捕まりそうになったり、殺されそうになったりだな。ただ、アイテムを使うということはダンジョンマスターって認めることだから、本当にどうしようもなくなった時だけにしとけ」
「わかった!」
俺は転移系のアイテムの存在とアイテムを手元に出す方法を教えた。
幸い、瑛士は自分のダンジョンに踏み入れたことがある。
最終手段として引きこもるのに自分のダンジョンほど良い場所はない。
最後に念の為、盗聴される可能性や見られる可能性があるから、電話やSNSの連絡ツールでも今日の話し合いの内容やダンジョンマスターを匂わすことは言わないように伝え、解散となった。
次はまた3日後に集まる予定だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます