30話 追求

ドアを開けて黒スーツを着た男女2人と対面する。



「お待たせしてすみません」


「あ、いえ、こちらこそこんな時間にすみません」



女の方が答えた。

男の方は基本的に話さない方針なのだろうか。



「それで、特殊建造物対策局の方が俺に聞きたいことって?」


「ご友人の品谷瑛士さんの事で少し。ここじゃなんですから、上がらせていただいてもよろしいでしょうか?」



俺じゃなくて瑛士……?


少なくとも俺を捕まえにきたとかじゃなくてよかったけど、あいつ何かやらかしたのか?



「いいですよ、どうぞ」



断っても仕方がないので大人しく2人を家にあげる。


ここは学生向けの狭いアパートだ。一気に部屋が窮屈になった。



「改めまして私は宮吉と申します。こちらは」


「筒口です」



これ俺も自己紹介した方がいいんだろうか。

でも向こうは俺のこと知ってて来てるわけだし、要らないか。



「あー、お茶でも飲みますか?」


「いえ、すぐに帰るので大丈夫です。それでさっそく本題なんですけど」


「はい」


「若島さんはダンジョンマスターについてご存知ですか?」


「確か……小嵜麻夢さんでしたっけ。小嵜さんの動画は見たことあるので一応知っています」


「なら話は早いですね。我々は品谷瑛士さんもダンジョンマスターではないかと考えています」


「あいつが?いや、あり得ないですよ。そもそもダンジョンマスターって小嵜さんが考えたネタかなんかじゃないんですか」


「ダンジョンマスターは実在します。小嵜さんが動画で言っていましたが、ダンジョン1つにつき、必ずダンジョンマスターがいるんです。我々はその人達を探している。本当に心当たりないですか?ダンジョン出現より以前に声を聞いたという話を聞いたことは?ダンジョンを運営しているような発言をしたことは?思い出してみてください」


「そう言われても何も思い浮かばないですし。もしも瑛士がダンジョンマスターとやらになったら、絶対自慢してくると思うんですよね。てか、どうして瑛士がダンジョンマスターって話になってるんですか」


「それについては詳しくお話しできません。ダンジョンマスターがするような言動が確認されたとしか」



ダンジョンマスターがするような言動ってなんだよ。


あいつダンジョンの運営全部AIに任せてるのにマスターっぽい行動できるわけなくない?


俺の時みたいにうっかり誰かに言ったのか?


でも、それを間に受ける人なんて……


あ、もしかして。


渋谷ダンジョンを攻略した特殊部隊にいた紫之宮さんなら、ダンジョンマスターが存在するって知っている筈だ。間に受けてもおかしくない。


それでかつての仲間に連絡した?

いや、紫之宮さんは今も特殊部隊に所属していて、ダンジョンマスターを探すために講習場で教官やっていたのか?


今はどっちでもいいか。それより重要なのは……



「あの、じゃあ、これも聞いていいことなのかわかんないんですけど、もし瑛士がダンジョンマスターだったとしたら瑛士はどうなりますか」


「彼を保護します」


「保護……?」


「はい。我々も一枚岩じゃありませんので、ダンジョンマスターの処遇についても意見が別れています。簡単に言うと、ダンジョンを完全に消滅させたい派閥とダンジョンを資源として利用したい派閥です。ダンジョンにはコアがあり、コアを破壊するとダンジョンマスターは死ぬというお話しを聞いたことは?」


「小嵜さんが動画で言ってたやつですね」


「はい。それです。それも事実です。そしてダンジョンマスターが亡くなるとダンジョンが消滅することもわかっています。」


「それは、なんというか。ダンジョンマスターの扱いが難しくなりそうな」


「ええ、そうなんです。ダンジョン完全消滅派閥の方々は密かにダンジョンマスターを捕まえて処分しようと動いています。私達はそれを防ぎたい」


「つまり、あなた方はダンジョンを資源として利用したい派閥ということなんですね」


「否定はしません」



なるほど。せっかく捕まえた馬渕基久情報源を潰すなんてもったいない事をすると思っていたが、裏で派閥争いが起きていたわけか。



「だったら俺のところになんか来ないでさっさと瑛士を保護すればよくないですか」


「あくまでも保護したいのはダンジョンマスターだけですので」


「なんだよそれ。つまりダンジョンマスターじゃなかったら保護しないし、別派閥の人間に何かされてどうなっても構わないってことですか」


「大変嘆かわしい事ですが、そうなります。しかし、我々も一般人になんらかしらの被害がいくことは望んでいません。だからこうして聞き込みをして事実を確認しています。こちらの事情は全てお話ししました。改めてお聞きしたいのですが、本当に心当たりはないですか?」


「ありません」


「本当に?」



男の方が聞き返した。

なんだか圧を感じる。



「ええ、残念ながら」



ずいぶん丁寧に説明していただいたが、言うわけがない。


保護なんて言ってるが、要するに捕まえて利用したいだけだろう。


さっさと処分されるか、死ぬまでずっと利用され続けるか、どっちがマシなんだろうな。


俺はどっちも嫌だよ。たぶん瑛士も。



「そうですか……残念です。では、なにか少しでもひっかかる事があったらこちらに連絡してください」



シンプルなデザインの名刺を渡された。


連絡する気はないけど一応受け取っておく。



「……わかりました。もしなにか思い出したらご連絡いたします」


「ありがとうございます。あと、今回の事は他言無用でお願いしますね」


「はい。誰にも言いません」


「よろしくお願いします」



こうして2人は帰った。


緊張が解れるのを感じる。うまく誤魔化せただろうか。あんまり自信はない。


俺は瑛士じゃなくてあの女をスケープゴートにしようとしてたのに、なぜこんなことに。

最低限、政府側の考えを聞けたのはよかったけど。


マジでどうしよう。


……いや、俺だけで考えても意味ないか。


俺のところに来たという事は、あいつらのところにも行ってる筈だ。それに、本人の意思も確認したい。


SNSのグループにあえて詳しい事は書かず、週末いつものカラオケに集まれないか聞いた。


瑛士からは即答でOKと返事が来て、しばらくして2人からも大丈夫と返事が来た。

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