29話 2度目の探索

無事に探索者ライセンス発行許可証を受け取れたので、早速ライセンス本体と交換しに行くことにした。


現在俺は町田で暮らしており、小さいが町田には講習場があるため、他の人よりは交換が手間ではない。


大学帰りに寄って、窓口で発行許可証を渡したら、番号札を渡されて待たされる。


発行までに時間がかかるようだ。


スマホを見ながら時間を潰していると、見知った人が来た。



「潮見さん、奇遇ですね」



講習場で出会ったサラリーマンの人だ。

身長が高くて、まだギリギリ青年と言える見た目で、30代らしい。



「あ、若島くん。久しぶり。ここにいるって事は無事受かったんだ」


「ええ。潮見さんもですよね?お互い受かってよかったです」


「また講習受けるのは嫌だしね。今日はお友達は?」


「あいつら、大学この辺じゃないので。今日は俺だけです。潮見さんはこの時間はまだ仕事なんじゃないですか?」


「あー、発行許可証が届いた翌日に辞めたんだ」



思い切ったことしたな。探索者として稼げるって決まったわけじゃないのに。



「それは……おめでとうございます?」


「ありがとう。元々辞めたかったからさ。こういう機会じゃないと辞められないと思ったんだ」


「社会人って大変なんですね」


「いや、俺の入った会社が悪かっただけ。若島くんはブラック企業に入らないよう気をつけなよ?あ、もしかして今後探索者として生計立てていくつもりなのかな」


「とりあえずはお小遣い稼ぎです」


「そっか。お互い頑張ろうね」


「はい。よかったら今度一緒にダンジョン行きましょう。町田ダンジョンってソロじゃ進めないところあるらしいので」


「ぜひ!俺も1人じゃ少し不安だったんだ」



ダンジョン攻略を一緒にする約束を取り付けたところで俺の番号が呼ばれた。



「すみません、呼ばれたんで行きますね」


「じゃあ、また」



潮見さんと別れて、ライセンスを受け取る。

帰り際に潮見さんと目が合ったので、頭だけ下げてそのまま町田ダンジョンに向かった。


さて。久々の町田ダンジョンである。


今回も当然予約なんてしていない。が、今日はダンジョン前に人がいた。ちょうど予約時間前だからだろう。


町田ダンジョンは予約しなくても別に入れるが、その場合は1階層から5階層までは戦闘ができない。


俺相手だとモンスターが襲ってこないから、そもそも戦闘できない方が都合がいいんだけどね。


てきとーにその場に居る人たちに挨拶してしれっと探索者達に混ざる。


1番入り口に近いところにいた探索者が、時間なので進みますと声をかけ、みんなで仲良くダンジョンに入った。


先導してるのは初心者のパーティ4人組のようだが、モンスター1匹に苦戦する事なくするすると進む。後ろをついていっている探索者グループの中には雑談をしながら進んでいる人達もおり、緊張感のカケラもない。


この空気感に慣れると他のダンジョン攻略するの大変だろうな。


4階層まで来て、問題が起こった。

倒したゴブリンから鍵がドロップしなかったのだ。


ドロップ率は95%なので、見事5%の方を引いたことになる。


可哀想に。1時間後に再挑戦しないとな。


慣れてる雰囲気の探索者達が初心者パーティを慰めていた。一方、ずっと喋ってうるさかった探索者グループはダンジョンに対しても初心者パーティに対しても悪態をついていた。会話の内容からして9階層が目当てっぽい。


いくら梅田ダンジョンでカメラが出るようになったとは言え、9階層が稼ぎやすいのは代わりないしな。こういう稼げればなんでもいい勢が来るのは全然おかしくない。


それってあんまり良い雰囲気じゃないよなぁ……向こうだって生活かかってるだろうし、そもそもダンジョン攻略に良いも悪いも無いと思うけど、なんか嫌だ。こんなのチュートリアルっぽくない。


頑なに階層のスキップを嫌がっていたけど、いい加減思考を柔軟にした方がいいのかもな。


何か対策をするにしても、ここでやる事じゃない。いったん家に帰って改めて考えよう。


探索者達はこの場で待機勢と1時間後にまた来る勢に別れ、俺は後者についていってダンジョンを出た。


家に帰る頃には、すっかり日が暮れていた。


俺は気が向いた時にしか自炊をしないので、今日はコンビニで弁当を買って帰ってきた。


電子レンジでお弁当を温める。


レンジの音がなる前に声が聞こえた。



『ダンジョンマスターからの侵攻を確認しました』



……今?


前と違って家にいる時なだけマシか。


ダンジョンの様子を急いで確認する。

そこには小嵜麻夢が映っていた。


アンケート用のメモ用紙に何やら書いている様子だったから、そこを拡大してみる。


てか、いつもだったらメモ用紙触った人いたら"メモ帳への接触者が現れました"って通知くるのに今回は無かったな。こいつがダンジョンマスターだからか?


小嵜麻夢はメモに


《話がしたい 070-XXXX-XXX》


と書いてアンケートボックスに入れ、ダンジョンを出ていった。


待って、電話番号覚えられなかった。



「視点を今の用紙に書かれた文字が映る様ににして」


『承知いたしました』



すると自動的に画面が代わり、女が書いたが内容が映った。


自分だと出来なくてもAIに頼めば物の影に隠れて見えないようなところまで見れるようになるんだよな。


で、一応電話番号メモったけどさ、話がしたいってなんの用だろう?


あんまり俺の電話番号知られたくないんだけど。小嵜麻夢にって言うよりは、もし小嵜麻夢に何かあった時に、電話履歴とか調べられて、そこに俺から電話あったという事がバレるのが不味い気がする。


公衆電話からかければまだマシか?

そもそもあっちの要望に応えて電話をかける必要あるのか?


対処を考えていると今度はインターホンが鳴った。


モニターを見ると黒スーツを着た男女2人組が居た。明らかに普通じゃない2人組だ。


この2人を見てただの宗教勧誘とか営業と思うほど俺は能天気じゃない。


小嵜麻夢が伝えたかったのはこのことか?

まさか、俺がダンジョンマスターってバレて……


急に心臓の音が早くなった。


相手は誰だろう。政府の人間か?

なんの用で来たんだ。

出て良い相手か?


思考がまとまらない。


居留守を使った方がいいのか?

いや、部屋の電気はついている。向こうも俺がこの部屋に居るとわかって来てるだろう。


それに、ここで出ないのは何かあると言っているようなものだ。


出るしかない。



「はーい」



声は震えていなかっただろうか。

緊張を隠せているだろうか。


まだ俺がダンジョンマスターだとバレて政府の人間が来たって決まったわけじゃないのだ。


落ち着いていこう。



『初めまして。特殊建造物対策局の者なんですけども、若島蒼斗さんのご自宅でお間違いないでしょうか?』



女の方が答えた。



「はい、そうですが」


『ちょっとお聞きしたい事がありまして、玄関口まで出て来てもらっても?』


「わかりました。服着てから行くのでちょっと待っててください」



服は着ているが時間を稼ぎたくて今着てないってことにした。



『はい。お待ちしております』



インターホンを切って大きく深呼吸をする。


相手は政府の人間だった。


大丈夫。まだ決まったわけじゃない。


最近探索者になった人にアンケート取ってるだけかもしれないし。ありえないだろうけど。


警戒しすぎて違和感を持たれるのも良くない。


あくまでいつも通りに。けど、もしもの事があった時のためには……



「自分のダンジョンにテレポートできるアイテムって存在する?」


『回答:空間転移の水晶、空間転移の宝珠、時空間ポータルキーなどが該当します。』



ショップ画面を開いて今言われたアイテムを探す。

1番安いのが空間転移の水晶。1度行ったことのある場所に1回だけ転移できる使い切りアイテムだ。それでも購入に500万ポイント必要だった。


小嵜麻夢あの女が刀を自分の手元に出してたんだから、俺にもできる。


すぐに買えるように画面を表示させたまま、玄関のドアを開けた。

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