21話 経過報告

友人たちとの話し合いから1ヶ月ほど経った。


俺は偏差値がそこそこの東京にある大学に進学し、両親にお願いして一人暮らしをしている。ダンジョンを運営するのは人の目を気にしなくていい一人暮らしの方が都合いいからな。


両親はありがたい事に家賃も生活費も負担してくれている。


流石に全負担は申し訳ないので、GWになったら探索者のライセンス取って生活費くらいは稼ごうかなと思ってる。他の探索者と違って自分のダンジョンなら安全に稼げるし。


あとシンプルに他のダンジョンにも行ってみたい。


さて、この1ヶ月間であの女こと、ダンジョンアンチのダンジョンマスター小嵜麻夢こさき まゆは現在、テレビ出演をするほど名を広めていた。


あの女は動画のコメント欄に来た質問をほぼ全部丁寧に答える動画をどんどん投稿していっていた。


ダンジョンマスターになった経緯で二日酔いでわけもわからず<はい>を押したってところは寝ぼけて<はい>を押していたって事に誤魔化していたが、それ以外は全部本当のことを言っていた。


人が訪れるとポイントが貰えるってことも、ポイントを使ってダンジョンを強化するってこともな。そして、あの女は自分のダンジョンの大まかな場所や構造も話していた。


それを聞いた小笠原で活躍している探索者が海の中のダンジョンの捜索に乗り出したのだ。


見事1週間ほどでコアらしき丸い物体がある建造物を見つけ、数日でそれがダンジョンであると認められた。このことが結果として女がダンジョンマスターであるという強い証拠となった。


ここに来て新しいダンジョンの発見とそれを作ったとされるダンジョンマスターの存在は話題性たっぷりである。ダンジョンの認定から女がテレビで取り上げられて出演するまでめちゃくちゃ早かった。


まだまだテレビも力を持っていると感じた出来事だったな。


女はコアを壊されるとダンジョンマスターも死ぬことを動画で言ってあり、すぐ壊せる位置にあるにも関わらず、海中ダンジョンのコアは壊されてないし誰も壊そうとしない。


いくらダンジョンマスターを名乗っていても、見た目は人で戸籍もある。それを別の生物だと判断するのは難しい。みんな人殺しにはなりたくないんだろう。


ここまで来ても政府はダンジョンマスターの存在を認めていない。


おそらくにはなるが、認めてしまったら問題になるのが渋谷のダンジョンだ。あれは自衛隊の特殊部隊が完全攻略してしまっているし、世間に広く認知されている。


ダンジョンマスターの存在を認めたら、女が話したダンジョンの仕組みも真実となり、自衛隊がダンジョンマスターという名の人を殺したことになる。批判は避けられない。


ついでに警察が連行した馬渕基久まぶちもとひさと突如消滅した群馬ダンジョンについてもあんまり突っ込まれたくない筈だ。


別に犯罪じゃないから女の動画投稿やテレビ出演を止める事もできないのにダンジョンマスターの存在を認めることはできないし、かといって否定もできない。


記者に突撃質問されようと、どんな政党も政治家も沈黙を貫いている状況である。


少なくともあの女ダンジョンマスターがすぐ消されるとかじゃなくて少し安心した。


話は変わって、俺のダンジョンはというと、隠し部屋探しをする9階層が好評だった。次の階層に進めるのにも関わらず、9階層に留まって宝箱探しをずっと続けてる探索者も居るくらいだ。


10部屋のうち2部屋しか良いアイテムは出ないが、ハズレのモンスター部屋も倒せさえすればまとまった数の魔核が取れるから喜ばれてる。


むしろ次の階層で必要な鍵が出る部屋が1番のハズレ扱いされてるので納得がいかない。


なお、9階層の部屋の場所は1日ごとに変えてる。場所覚えられたら一気に簡単になっちゃうからな。


場所変え作業は瑛士を参考にしてサポートAIに頼んだらあっさりと対応してくれた。ついでに宝箱の中のアイテム設置もやってくれている。サポートAI、めっちゃ便利。


宝箱から出るアイテムの中で1番人気なのは、やっぱりスキルの書だろうか。


今のところ他のダンジョンではドロップしないので、売値も高く、持っているスキルの書でも比較的喜ばれている。


その次に人気なのは意外なことにカメラだった。


とある探索者パーティがカメラで撮った映像を壁に流したところをさらにスマホで撮るというやり方でネットにあげ、大バズりしていた。やっぱりダンジョン内の映像は需要があるみたいだ。


一時期、流行りに乗りたい人たちがこぞって俺のダンジョンに来て、予約システムにキレながらも進み、9階層の隠し部屋を奪い合っていた。

ギリギリ理性が働いたのか殺し合いにまでは発展しなかったが、部屋を取れた探索者と取られた探索者が喧嘩を起こしまくっていた。


このままだと1から5階層に続き、9階層も予約システムが導入されてしまうんじゃないかと思ったくらいだ。


他のダンジョン……梅田ダンジョンからカメラがよくドロップするようになったから最近騒動は落ち着いてきている。


喧嘩や宝箱ごときで予約とかいう面倒なシステムができて初心者が寄り付かなくなるのは困るから瑛士に頼んだ。いつも通りシロンちゃんにお願いして良い感じに調整してもらったらしい。


あとは異常状態回復薬も結構喜ばれ、マジックバッグ(小)とマッピングマップはそんなに人気がないという結果となった。


終電ギリギリまで探索者がダンジョン内にいる状態になったので、俺としては大満足だ。


おかげでポイントが貯まったから新しく風の環境変化をテーマにした階層を作ろうと思う。


まず5m×50mの部屋を作る。

そして、どこからともなく突風が吹くってだけの変化を適応させる。


本当は環境変化を山岳というものにしたかったが、火の階層の時と同じくかかるポイントがめちゃくちゃ高かったので、今回はただの風で我慢だ。


これだけだと簡単すぎるから、部屋の左右2mずつを最終階層と同じ要領で巨大な落とし穴にした。実際の道幅は1mしかなく、風や敵の攻撃で左右の穴に落ちるかもしれない状況で敵と戦ってもらう。


敵にはロックバードを5匹ほど配置した。ロックバードは空を飛びながら魔法で石や岩を出して落としてくるモンスターだ。狭い道で戦うのはなかなか大変なんじゃないだろうか。


また、5匹のうち1匹に次の階層で必要な鍵をドロップするように設定した。ロックバードを無視されて先に進まれても困るからな。


運が良ければ1匹倒しただけで次に進める。5匹全部倒す必要無いってところがちょっとした優しさだ。


最後にいつも通り看板を設置する。



【チュートリアル(14) 風に気をつけながらモンスターを倒して鍵を見つけよう】



俺でもそろそろこのチュートリアル長いって思い始めてきたな。


20くらいで辞めて違うコンセプト切り替えようかなぁ……初心者向けっていうのは変えたくないんだけど。


とりあえずその後、サクッと15階層を作った。ボス階層扱いなので今までと作りは一緒だ。


ボスは3mほどあるエレメンタルゴーレムを配置した。火、水、風、土の魔法を使ってくるモンスターで、物理攻撃も魔法攻撃も効きづらく、4つの核を全部壊せば動きは止まる。今までで1番ボスっぽい敵だ。


1番進んでいる探索者でも現在12階層を攻略中だから、辿り着くまではもう少し時間がかかるだろう。

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