19話 説明する
大阪旅行から帰ってきてから次の日。
ネットでとある動画が上がったことが話題になった。
『私の名前は
動画に出てきた女の顔はこの前俺のダンジョンに来た女と同じだ。間違いなく同一人物だろう。
まさか本当に表に出てくるとは。
動画は5分ほどある。
SNSで話題になってたからある程度は内容はわかっているが、とりあえず見てみることにした。
『昨年の元日。世界は未曾有の事態に見舞われました。ダンジョンの出現です。私にはその出現が1ヶ月前から分かっていました。ダンジョンマスターという存在をご存知でしょうか?都市伝説としてネットやたまにテレビでもダンジョンを運営してる人と取り上げられている存在です。大多数の人間はあくまでも都市伝説であり、ダンジョンマスターは実在しないと思っているのではないでしょうか。でも、ダンジョンマスターは実在します。私がそうです。私以外にも、ダンジョン1つにつき、必ずダンジョンマスターがいます』
前置きが長い。
もうちょっと端的に説明できないのだろうか。
『ダンジョンが世界各地に出現するおおよそ1ヶ月前、私たちには声が聞こえました。ダンジョンマスターに選ばれました。1ヶ月後、人類の侵攻が始まります、と。その際、ダンジョンマスターになるかどうかは選べましたが、私は気づいたらダンジョンマスターになることを了承していました』
流石に二日酔いで記憶がほぼないとは言えないか。
『ここからが本題です。私はダンジョンマスターになんかなりたくなかった。人類と戦いたくありません。侵攻し、侵攻される関係なんてまっぴらごめんです。私は1人、私の他にダンジョンマスターになりたくなかった人を知っています。もしかしたら他にも。だからといって、ダンジョンの攻略をやめてほしい訳ではありません。私もすでに2つのダンジョンを完全攻略しています。今回はただ、ダンジョンマスターの存在と、ダンジョンマスターの中でもなりたくてなったわけじゃない人がいる事を皆さんに知って欲しくて動画にしました』
動画は最後にここまで見てくれてありがとうと言う言葉で終わっていた。
コメント欄はネタと捉えてダンジョンについて質問している人もいれば、誹謗中傷をしている人もいた。ダンジョンマスターになった背景がほとんど語られてなかったせいか、同情的なコメントは見かけない。
SNS上の反応だと、3割くらいの人が素直にダンジョンマスターの存在を信じて、残りの人たちは炎上狙いの嘘だと思っている感じだ。
まぁ、動画の内容が知って欲しいだけで終わったらそうなるか。
ダンジョンマスターらしい要求もしなかったし、ダンジョンマスターだという証拠もなかった。
これじゃあニュースにすら取り上げられない。
もうちょっと話題性がないとな。
あいつらに説明する時の補足くらいには使えるか……?
動画がこれだけで終わるとは思えないので、続編に期待だ。
それから2日後。
今日は友人たちが来る日だ。
一応何を言うか頭の中でまとめてきたが、予想外の行動をしてくる生き物、瑛士がいるからどうなるのかわからない。
俺ん家の最寄り駅で集まって一緒に来たようで、インターホンが鳴ってドアを開けてみたら3人が居た。
とりあえずまとめて家に上がらせる。
今日は都合よく両親が2人とも居ない日だ。聞かれたくない話をゆっくりするのにちょうどいい。
3人を部屋に通して、その辺に座らせる。
いつものくだらない雑談がない事から、2人……チャラい方が
瑛士?あいつは何も考えてない。どうせ2人とも喋ってないから俺も!ってところだろう。
全員喋らないなら俺から話し出すしかない。
「何から話すか迷ったんだけどさ、一昨日トレンドになってた動画見た?女性が私はダンジョンマスターですって言ってたやつ」
「あー、あれね。一応見てきた」
「俺も」
「俺も見たよ!」
見ていたなら話は早い。
「ダンジョン1つにつき、必ずダンジョンマスターがいます、って言ってただろ?あれがガチなんだよな」
「てことは今日本にあるダンジョン……10個だっけ?全部にダンジョンマスターがいるってことか」
「で、そのうちの2人がお前らだと」
「正確には11個だけど。まぁそうなる」
ちなみにダンジョンの場所は北海道の富良野、宮城の仙台、東京の町田、東京の小笠原諸島、埼玉の所沢、千葉の松戸、大阪の梅田、奈良の奈良市、広島の府中市、長崎の佐世保、福岡県の北九州市にある。
それに政府が潰した渋谷と群馬、あの女の海の中のダンジョン、そして動画であの女は2つ攻略したと言っていた。それを合わせると元々ダンジョンは合計16個あったってことだな。
「俺は梅田ダンジョン!蒼斗は?」
「町田ダンジョンを運営している」
「どっちも有名なダンジョンじゃねぇか」
「えへへ」
瑛士がなぜだか誇らしそうにしている。
作るのも運営するのも全部AI任せなのにな。
「そこら辺はどうでもよくってさ、なんでお前らなの?」
「さあな。声には"抽選により、ダンジョンマスターに選ばれました"って言われたけど」
「それ!俺も言われた!」
だろうな。
ついでにあの女も聞いてるからダンジョンマスターに選ばれた人は全員聞いているんだろう。
「で、ダンジョンマスターになった俺は死にたくないからダンジョンを作った。俺たちダンジョンマスターはいわゆる完全攻略状態、渋谷のみたいにダンジョンのコアを壊されると死ぬからな」
「そうなの!?」
「なんで瑛士は知らないんだよ」
「アホだからだろ」
「マジでそう。生死かかってるダンジョンの運営全てサポートキャラに任せてるからな」
「サポートキャラ?」
「シロンちゃんって言うんだ!かわいい声してるよ」
「本来はダンジョン運営をサポートするだけのAIだよ。複数から1種類選べる。」
「そんなのあるんだな」
「じゃなきゃ瑛士みたいなやつがダンジョンマスターになったら終わるだろ」
「「確かに」」
2人の声が被った。
思うことは一緒か。
「とにかく、俺は死にたくないからダンジョンを作った。だからと言って人を殺したいわけじゃないからかなり緩いダンジョンだけどな。瑛士は馬鹿だからダンジョンを作った。こいつに関しては何も考えちゃいない」
「少しは考えてるよ」
「たとえば?」
「えっと……」
「ああ……なんとなくわかった」
「瑛士、お前ってやつは……」
2人は瑛士を可哀想なものを見た時と同じ目で見ている。
ここまで話して、2人はダンジョンマスターにマイナスの感情を持っていなさそうだった。身内に殺された人でもいなければそんなものだろうか。
2人の緊張がだいぶほぐれ、場の雰囲気が緩んだところで次の議題に行こう。
「2人に相談なんだけどさ。どういうドロップアイテムがあったら探索者が喜ぶと思う?」
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