18話 バレる


「瑛士は自分のダンジョンを様子見するために来たのか?」


「んー、そうとも言えるし、なんか違う気もする。蒼斗がここに来なかったら俺も来てないだろうし」



なんだか煮え切らない返事だ。



「そんなことより先に進まない?俺探索者やってみたかったんだよね」



そんなことより??


こいつ、今の状況わかってんのか。わかってないんだろうな。


人類とダンジョンマスターは敵対してるが、ダンジョンマスター同士だって別に仲間じゃないんだ。あの女のようにダンジョンの完全攻略を狙ってる奴もいる。


呑気に一緒に探索なんてしてる場合じゃない。


そもそも……



「自分のダンジョンのモンスターは襲ってこないからここじゃ探索者みたいな事できないぞ」


「えっ、そうなの!?」


「割と基礎知識だと思うけど。どうやってダンジョン運営してるんだよ」



この程度の情報も知らない奴がなんで人気ダンジョンのマスター出来てるんだ。

運だけでここまで生き残って来たのか?



「説明多くて全部スキップしちゃってた!運営は全部シロンちゃんに任せてるよ」


「シロンちゃん?」


「うん。可愛い声の子」



声……まさかサポートAIのイプシロンタイプのことか……?


俺が1番最初に候補から外していたやつだ。


全てサポートAIに運営を任せていたとしたら階層の内容がすごくまともなのも、人が大勢来てるのに完全攻略されないままでいられるのも納得する。



「人気ダンジョンの正体がAIだったとは」


「だって、面倒じゃない?ダンジョン運営」


「もともと瑛士はクラフト系のゲーム苦手だった筈だろ。なんでダンジョンマスターになろうと思ったんだよ」


「その時は面白そうだと思ったんだ。でも無理!複雑すぎる!」



言うほど複雑か?

確かにモンスターの種類にドロップアイテムの設定、罠の種類にもっと言うなら内装も含めると決めることは多い。


でも操作方法自体はスマホと同じ感覚でできるから難しくないはずだ。


いや、本当に全部AI任せなら、こいつの性格上ろくに説明聞いてないな。

新しく階層を作る方法すら覚えてない可能性ある。


こいつ相手にもし敵対したらなんて考えてる俺がバカだった。



「それで、瑛士は探索者をやりたいんだっけ」


「そうだよ。ダンジョンマスターなんかより先に探索者の存在知りたかった」


「やればいいじゃん。探索者」


「さっき出来ないって言ってなかった?」


「ここではな。他のダンジョンに行けば体験できる。その時自分のステータス情報は種族のところだけでも誤魔化しておけよ」


「そっか!誤魔化すのってどうやるの?」


「シロンちゃんに聞いとけ」



あの女はダンジョンマスターと人類は仲良く出来ないと思い込んでいた。バレなきゃいい話なのに。


瑛士もなぜか探索者になれないと思い込んでいた。勝手に他のダンジョンに攻略しに行けばいい話なのに。


俺も、少し自覚がある。ダンジョンマスターは殺される存在だと思っている。ダンジョンの存在は人類に利がある必ずしもそうだとは限らないのにな。


もしかしてダンジョンマスターって思い込みが激しいという特徴をもった種族なのだろうか。そんな単純なものじゃないんだろうけど。


なんにせよ、俺は梅田ダンジョンの様子見どころじゃなくなってしまったし、瑛士はここ以外のところで探索者をやった方がいいって事になったから、とりあえず俺たちはホテルに戻ることにした。


ホテルに帰る頃には3時を回りそうな時間で、部屋に着いてすぐ俺たちは寝た。


翌日。アラームの音で起きる。



「おはよ!」


「むり、眠い」


「いや起きろって」



なんて会話をしながらホテルを出る準備をする。今日の予定はユ⚪︎バに行く→家に帰る、で終わりだ。



「そういえば昨日の夜お前ら2人部屋に居なかった時間あったよな?」


「あー」



当初の予定通り、コンビニに行ってた、という言い訳をしようとしたところを別の声で遮られた。



「梅田ダンジョン行ってた!」


「ま?中入ったのか?」


「うん。それでね、びっくりしたんだけど」


「瑛士、一回黙ってよう」



嫌な予感がして瑛士を止める。



「なにを?俺らがダンジョンマスターってこと?」



……嘘だろこいつ。


もはやワザとやってないか?

なんでわざわざそれを言うんだ。



「は?」


「なんかのネタ?」


「そうそう、瑛士の冗談」



異議を唱えそうだったので瑛士の口を手で押さえて物理的にこれ以上は何も話せないようにする。


場に微妙な空気が流れた。


数秒静かな空間になり、友人の片方が気まずそうに口を開いた。



「蒼斗。無理がある」


「ああ。瑛士の発言に対する反応がガチっぽい」


「いやいや、ダンジョンマスターなんて居るわけないじゃん。こんなところに2人も」


「うーん、そもそも俺はダンジョンマスターが何かわからないけどさ、いつものお前なら瑛士の発言を否定せずに受け流してるよ」



そうだろうか。そうだったような気がしてきた。



「ダンジョンマスターってアレだろ。一部で騒がれてるダンジョンを作った人のこと。それがお前らってことだよな?」


「えっと」



返答に困っていると、口を抑えていた手を瑛士が強引に外した。



「もー、なんで俺の口押さえるんだよ!……もしかして蒼斗は2人に知られたくなかった?」



そうだよ……誰にも教えるつもりなかった。

なのになんでこうも簡単に言うんだ。


もしかして瑛士はダンジョンマスターが死ぬとダンジョンが消えるって事も知らないのか?

せめてそこは伝えておけよシロンちゃん。


ここまできたら腹を括るしかない。

この2人には事情を話そう。


でも今じゃない。



「いったんこいつの発言全部忘れてくれ」


「えー」


「もう一度言うが、無理がある」


「別日にちゃんと話すからさ」


「普通に今話せば良くない?」


「そんなことよりユ⚪︎バだろ。遊ぶ時間なくなるぞ」


「それは嫌だ!後にしよう!」


「瑛士が言い始めた事じゃねーか」



多少ゴネられたが、瑛士がゴネ返し、ダンジョンマスターについて話すのは3日後俺の家に集まってする事になった。


先延ばしにしているだけかもしれないが、これで何をどこまでどう話すのか考える時間が取れた。


当日何話すかはまた後で考えるとして、今はユ⚪︎バを楽しもう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る