14話 スケープゴート
家に帰る道中、さっきの女との会話を思い返す。
あの内容で女は世間に自分の正体を公表するだろうか。
警察に連行されたダンジョンマスター、
国はダンジョンマスターの存在を認めていないどころか情報を出していない。
馬渕基久が連行されてからネット上ではダンジョンマスターがいるとされてはいるが、まだまだ噂程度の存在。
そんな時ダンジョンマスターと名乗る人物が出てきたら、世間はどう言う意見を持つのか。
見た目は人と全くおんなじで、戸籍も持ってる元人間。それでダンジョンマスターにはなりたくなかった。敵対したくないと言っている。
同情を集めてダンジョンマスターを人として扱うのか、それともやっぱりダンジョンマスターは悪だとして狩られるのか。
俺はそれが知りたい。
まぁ別にあの女が表に出なくても、俺のやることは変わらないからどっちでもいいんだけど。
でもあの女、自分の状況が終わってることに気づいているだろうか。
海の中にダンジョンを作ったと言っていた。人類が訪れる可能性はかなり低い。
それじゃダンジョンのレベルは一生上がらない。
ダンジョンマスターのレベルはダンジョンと紐づいているんだから、あの女はこの先もレベル1で、ステータスも変化しない。
いくら強いスキルを取ろうが、元の身体能力が低いままだと、ダンジョンの完全攻略なんて無理な話だ。
もちろん俺のダンジョンもな。
あの女は脅威ではないと思ったからわざわざ説得なんかして、少しでも利用価値をあげてから武器と一緒に解放した。
"ダンジョン攻略は別に続けても良い"という言葉は紛れもなく本心だ。ただし、その後にどうせ途中で死ぬだろうけど、と続く。
もし生き残りたいなら、今後ダンジョンに近づかず、当然ダンジョンマスターと名乗ることなく、声は全部無視していれば平穏な生活を送れるんじゃないだろうか。
今の所、ダンジョンに人を招き入れなかったからと言ってペナルティが発生するわけでもないし。
なんにせよ、しばらくはあの女がどうするのか様子見だな。
ちょうど考えがまとまったところで、電車が最寄駅に着いた。
現在の時刻は13時前。
自然と自宅までの道に進もうとしたところで足が止まる。
そういえば俺友達と遊びに行くって言って家を出てきたんだった。今帰るのは早すぎる。
というか1人でいられるところを親に見られるのはまずい。違うところ行かないと。
適当なところで昼飯食べて、高校近くのゲーセンで時間潰すか……
・
・
・
日が暮れた頃に家に帰り、その後家族で夜ご飯を食べに行った。結構良い値段がする中華は美味しかった。あの小籠包また食べたいな。
深夜、自分の部屋で、まずはあの女に壊された罠を復旧するところから始める。
今はポイントに余裕があるから、配置を変えつつ、罠も殺傷能力が高いものに入れ替える。合計3万ポイントほど使った。
全部の作業が完了する頃には、時刻は1時ごろに回っていた。
この時間を過ぎると、もう電車が走ってないのでダンジョンに訪れる者はいない。まぁ今日は21時ごろには人が居なくなってたんだけど。
俺のダンジョンは夜遅くまで攻略するようなダンジョンじゃないしな。
とにかく、人が居ないってことは最初の部屋をアップグレードできるってことだ。
広さを2m×3mから4m×6mと倍にする。
床をただの土から石畳に、入り口はゴシック風のフレームに変えた。
試着室よりスペースがなかった小部屋は、ゆったりできるトイレの個室程度には広くなった。
ベンチも大人が横になって寝れるくらいまで大きくする。
そして最後は看板の設置だ。
【-お知らせ- 皆様が過ごしやすいよう最初の部屋を大きくしました】
チュートリアルダンジョンですって書いた看板の隣に置いた。
驚くだろうな、人類。
なにしろ出現した建造物が大きくなるなんて今までになかった事例だ。
大きくなったことが侵略だと思われたくないので、あくまでも人類のことを考えて大きくしたって事を看板で伝えた。これで完璧だ。
最初の部屋の設定は終わりにして、7階層と8階層の間に新しく階層を作る。
まず階層降りてすぐのところに、ボタン解錠型扉という、2箇所のボタンを踏むと開く扉を設置する。その扉が開けば先に進める仕様だ。
ゲームでよく見るやつと思ってもらっていい。
ボタン解錠型扉の弱点は解錠ボタンを半径5m以内に置かないといけない事だ。しかも、3つ必要なタイプなら4m、4つ必要なタイプなら3mと、なぜか必要なボタン数が増えるたびに範囲が狭くなる。
これで難易度を調整しているつもりなのか?
距離の換算が半径なら余裕すぎる。
俺は扉の左右が道になるよう◻︎の枠を配置し、そこから左右それぞれに迷路を作った。
左はホーンラビットのモンスタースポナーを隠して置いて、迷路を複雑にした。
右は罠を多めに置いて、モンスターは設置しなかった。迷路もそれほど難しくない。
迷路の構造は一度奥まで行き、折り返して扉の近くにゴール、ボタンを置いた。
辿り着くまで時間はかかるが、ボタンは半径4m以内だ。ちゃんとルールに則っている。
さらに右のボタンの前には崩れかけの壁を置いて、そこに繋がる道を坂道にした。岩でできたが大玉が転がってくる罠を発動させれば壁が壊されてボタンを踏めるようになる仕組みだ。
ボタンは人じゃない物で押されてても開く。けれど重さが50kg必要だ。
右側は転がってくる大玉をどうにかすれば良いかもしれないが、左側は人が乗らないとどうしようもない。まさか50kgの荷物をここまで運んでくるわけにも行かないし。
これでソロじゃ絶対に進めないダンジョンとなった。
ダンジョンマスター対策としては都合がいいんじゃないだろうか。
【チュートリアル⑧ 謎解きをしてみよう!】
いつも通り看板を設置したら終わりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます